HOMEMADE MUSIC。
親も音楽家であるミュージシャンがデビューするのは別に珍しいことではないが、自分世代の親を持つ人達が出てくるとさすがに歳をとったなぁなんて痛感する。2年の夏頃だったか、当時高校生だったシン・リズムがano(t)raksからデビューした時それを強く感じた。リズムくんのお父さんは正確には僕よりも少し上の年代だけれども、自分が20歳前後の頃好んで聴いていたようなネオアコやギターポップを子守歌にして聴いて育ってきた世代がデビューした!ことはそれほどに鮮烈な印象であった。同時にスティーリー・ダンなどのAORの影響も垣間見られて、10代にしてそのセンスの早熟さに本当に驚いた。パパリズムの音楽趣味が良かったことに感謝したい。こんなティーンズミュージシャンを育て上げてくれてありがとう!と。
海外に目を向けると2016年は、すごいティーンズバンドがデビューした。イギリスの名門インディーレーベル4ADからデビューした、ブライアンとマイケルという19歳と17歳の兄弟を中心とした4人組 The Lemon Twigsがそれだ。ビートルズやバッドフィンガーなど系譜にあたる王道ポップなメロディとハーモニー、縦横無尽なアレンジ。高校生の時に東芝EMIが開設していたファンクラブに入会していたほどのJellyfish好きな僕がThe Lemon Twigsの虜になってしまうのに時間はかからなかった。一目惚れである。同時にとある疑問がわく。何故10代でこれほどマニア好みな曲作りができるのだろう?
発売前に待てずに予約したCDが手元に届きクレジットを眺める。クレジットにはRonnie D’Addarioなる第3のダダリオの名前がエンジニアとして記載されている。これは!と気になって調べてみると兄弟の父親という事がすぐにわかった。youtubeに音源がある。もちろん聴かない手はない。さっそく「Nice Meeting You - Again」という曲を聴いて腰を抜かす。エミット・ローズを彷彿させるポール・マッカートニー直系の美しいメロディ、バロックポップなアレンジがまんまThe Lemon Twigsの原型なのだ。他にも聴くと先述ミュージシャンの他にビーチボーイズに影響を受けたであろうコーラスワークがとにかく美しい。The Lemon Twigsから入ったのに、今ではむしろPapa Twigsに夢中である。
パワーポップファンにはお馴染みのYellow Pillsというコンピレーションアルバムがあるが、その3枚目にもロニー率いるThe Rock Clubというバンドが参加している。このアルバムも持っていたのに全然気付かなかった。僕の耳はなんと節穴なのだろう。ネットの時代というのは便利なもので、The Lemon Twigsの兄弟の協力もあって父ロニーのレコーディングはデジタル配信という形で販売されることになった。4枚ほどアルバムを購入する。僕のお気に入りはファーストアルバムとセカンドアルバム。セカンドに収録されている「Falling For Love」はカーペンターズにも提供するがレコーディング途中でカレン・カーペンターが病に倒れ陽の目を浴びなかったそうだ。素晴らしいソングライティングノウハウは子どもにも受け継がれたのだろう。子どもの頃からこのお父さんと一緒に音楽を楽しんでいたダダリオ兄弟が10代にしてあの音楽にたどり着くのは当然だったのだなぁとあらためて思う。環境はセンスを加速させるのだなぁと。
※この文章はル・プチメックのWebサイトに連載した「片隅の音楽」をアーカイブしたものです。初出:2016年11月
Ronnie D'Addario「Take In a Show」(Homburg Records/2016)
スタジオミュージシャンとして数多くの音楽制作に関わるロニー・ダダリオによる76年のファーストアルバム。4チャンネルのオープンリールデッキでの自宅録音。すべてを自身で演奏するマルチプレーヤーでもある。ムーブメントの中にあればヒットしていたのではないだろうかと思わせるパワーポップソングが並ぶ。現在cdbabyで他のアルバムも同時に配信販売している。新作アルバムが近々発売予定だとか。