海の飛沫 - #4 「まだその時じゃないって、いつになったら『その時』が来るのさ~!」
「うるせえな、とにかく今じゃねえの!」
「でも、私が君に絵の依頼をしてから、もう3ヶ月も経ってるじゃん!」
「3ヶ月しか経ってないだろ」
「そうだけど!でも!途中経過くらい見せてくれたっていいでしょ~」
「しつこいな……」
「どうして見せてくれないの!」
「だから、まだ途中なんだって」
「なんで途中だと見せてくれないの!」
「試行錯誤してる最中の半端な状態なんて、誰にも見られたくないだろ」
「見られたくないの!?」
「普通見られたくないだろ」
「そうなの!?途中経過って、むしろ見せたいもんだと思ってた」
「なんでそうなるんだよ」
「なんでだろう……私が報告したいタイプなのかも。見て!今日はここまでできた!って」
「小学生か」
「なんで小学生?」
「いや、親になんでもかんでも報告してるのと同じだなって。『見て見てお母さん~!』って」
「は!たしかに、私、小学生なのかも」
「認めるのかよ」
「うー、でも黙ってるとむずむずしちゃうから、見せたくなっちゃう。君は昔からあんまり見せないタイプだった?」
「いやさすがに俺も小学生のときはあったよ」
「ふーん……。それが途中から『見られたくない』に変わったのか……なにか理由があるの?」
「いや、それが大人になるってことじゃねえの?努力が大事って大人は言うけど、結局評価されるのは結果だし。過程は評価されないって気付くと、見せる意義も見い出せなくなってくるだろ」
「へー、大人だ~」
「……お前バカにしてんの?」
「え!?全然そういうつもりはなかった、ごめん……」
「いや、別にいいけど」
「……で、でもさ、せめて今どれくらいまでできてるか教えてもらえたりしないかなぁ~なんて……?」
「しつこいな」
「だ、だってそわそわしちゃうんだもん!明日突然完成品を渡されたらどうしよう!?心の準備が~!!」
「少なくとも明日じゃねえよ」
「じゃ、じゃあ、1週間後とか!2週間後!?」
「そんなすぐじゃねえって。描き始めたらあとは早いと思うけどさ……」
「あ、まだ描き始めてないの?」
「あ、いや、サボってるとかじゃないからな?色々案は浮かぶんだけどさ。まだ『これだ!』っていうのが掴めてなくて……」
「なるほどね!そうかぁ、描く前にも色々あるのかぁ。そんなこと考えたこともなかった」
「こういうのは描いてる人間じゃないと分からないよな」
「何か私に手伝えることってあったりする?」
「いや、特には……。結局はタイミングなんだよな。闇雲にたくさん描いてれば良い絵が描けるってもんじゃなくて。自分の中で日々感性や価値観を磨いて、あ、これだ!って感じたものを、その勢いで描く感じ。今までもそうやってきたし」
「なるほど……降ってくるってやつか……」
「まぁ、一応いくつか案はあるにはあるけど、調べてみるとやっぱどこかで誰かが描いてるんだよな。俺にしか描けない絵にするのはなかなか時間がかかりそうだな」
「?他の人が描いてたら、君は描いちゃいけないの?」
「いやだって、そんな誰でも思い付くようなもの描いても、意味ないだろ」
「別に私はいいと思うけど」
「……お前、そんな気持ちで俺に依頼してんの?やっぱバカにしてんだろ」
「え!?ううん、そうじゃなくて!誰かが既に描いていたものでも、君に描いてもらうから価値があるんだみたいな、そういうことを言いたかったの……ごめん……」
「……まぁとにかく、そういう訳だから。頼まれたからには確実に良いものを作るからさ。期待しとけよ」
「分かった、楽しみにしてるね!……また間違えちゃった……駄目だなぁ……」
前のお話