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グルグル電話

最近、無性に観たくなって『トイストーリー』を鑑賞した。
ストーリーは言わずもがな、ピクサーが世界に誇る名作だ。
おもちゃには魂が宿る。見方を変えれば怖い話にもなるが、とても素敵な考えだ。
それを観ながら僕は考えていた。
当時、『おもちゃ』って何を持ってたろう。

僕はメカやミニカーに全く興味がなく、遊ぶとなると、どちらかといえば
剣だったり怪獣・ヒーローの人形を使いこなして妄想を膨らます方だった。
まぁ、それは一般大衆の男の子は大体そうであろう。
ただ、僕の記憶の中のおもちゃには一つ、珍しいものがあった。
『ばあちゃんのグルグル電話』だ

ひいばあちゃんの家には黒電話があった。
幼少期の曖昧な記憶の中に、うっすらと大人たちが使っていた記憶がある。
とっくの昔に現役を退いたばあちゃん家のグルグル電話は、ひっそりと玄関横の物入れと化した応接間に眠っていた。
子供の頃、よくそれを見つけ出しては遊んでいた(電話一つで遊べるなんて何てコスパのいいガキだこと)
ボタン式じゃない、指で一つ一つ回す珍しい電話。
そのユニークな構造に子供の僕はキラキラだ。
テキトーにダイアルを回せば、もしかしてどこかの誰かに繋がるのでは
そんな期待もあったのかもしれない。

あの黒電話は今どこにあるのだろうか。
今でも埃をかぶって、遊ばれるのを待ち望んでいるのだろうか。
今ならダイアルを回せばばあちゃんに繋がるだろうか。

ばあちゃん。元気してたねー?
うん、ありがとう。俺は元気よ。久しぶりさぁね。
はっさ、でーじよ。最近さ、運動してないから太ってるってば。
大変よ、痩せないとダメさ。
ばあちゃんよ、だから違うってば、それは叔父さんの名前よ。
俺は海音。し・お・ん。
今? 今は東京に住んでるよ。仕事してるさ。
うん、新宿よ新宿。行ったことあるでしょ?
母さんが小学生の頃ディズニーに連れて行ってもらった事あるって言ってたよ。その時行かんかったね? 新宿に。
まぁそうだね、40年以上前の事だもんね。覚えてないか。
…俺? 26になったよ。
だからさ、歳とった。もう社会人よ。
前は去年? 仏壇に線香あげたさ。見なかった? ヒラウコーしてから。
違うってば、だからそれは叔父さんよ。何回言わせるから。
…だからよ。まだ誰もそこに来ないね。
でもいい事じゃない? 元気が何よりさ。いつか皆行くところだしゆっくりが上等よ。
ばあちゃんも97でしょ? 98だっけか?
めちゃくちゃ大往生さ、凄い。
いつだった? 俺が小5か小6くらいよね。もう10年以上は経つさ。
ん? 変わったよ~。ばあちゃんの家の道路あったでしょ? あそこめちゃくちゃ広くなってからさ、全然見た目違うはずよ。
俺も帰ってきたら、見るたびに変わってて驚いてるもん。
そうよ、母さんは今一人。よく線香あげにきてるでしょ?
だからよ、分かってるさ。もう少し偉くなったらそうしようと思うけどさ、まだまだ途中だわけ。
うん、ありがとう。頑張るよ。
ううん、居ない。忙しいから全然そんな気持ちにならん。
ちゃんとするよ。
墓掃除? 毎年してるよ。俺は行けてないけどさ、母さんたちがやってる。来てるでしょ? 毎年5月くらいに。
識名のよ、あの霊園の方の。だーる。
今度帰ってきたら、線香あげに行こうね。うん、約束。
いつになるかね。うん、分かってる。なるべく早くね。
うん。ありがとう。
はいはい、直ぐ行くさ。
うん…それ叔父さんの名前ってば。
はい、
はーい。

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