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お湯で、人で、あたたまる。

一人暮らしを始めて、数週間が経った、9月某夜の話。
夜風の涼しくなってきた頃、大浴場への欲情を煽られた気がして、私は近所のお風呂屋さんへ行くことにした。

中に入って、番台さんにお金を払う。銭湯に行くたび思うけれど、私はこの瞬間、いつも何故だか少しだけ緊張しちゃうのだ。けれど、今回は緊張がほぐれた感じがした。
「あー!すみません!新千円札あまり見かけないもんで、お釣り多く渡しちゃいました!」
↑小銭が無いから新札の北里さんで払おうとした私に対して驚いた番台さんが、私へのお釣りを多く渡してしまうというヘンテコ事案が発生。なんと素敵なお風呂の始まりだろうか……!(とか言いつつ、新札使えなかったらどうしよう、、と一瞬焦った気持ちもあったりした。無事使えて何より。)

いざ、お風呂へ。
大浴場が中央に広がり、隅っこには水風呂があった。サウナは無かったけれど、熱めのお湯、温めのお湯(ここが吹き抜けの露天風呂)があることは確認できた。
髪と体を洗ったら、ようやく入浴。まずは1番広い大浴場へそーっと入る、一人暮らしを始めてから初めての大浴場は感動モノだった。全身ゆったりとお湯に浸かれるお風呂って、なんて最高なんだ……!オマケにジェットバスもついていて、疲れた身体に泡の刺激がたまらなく効いて、これまた最高。

そんなジェットバス付きの大浴場の隣には、浴槽は異なるが同じお湯を使っているお風呂があった。
もしかして……この構造は……やはり、私の大好きな電気風呂だった!(大好きと言いながら、私という人は、電気風呂にあまり長く浸かれない人間である。)ここの電気風呂はどんなものか、ジェットバスだけではもの足りなく感じる私は、強い刺激を味わえる期待を抱きながら、未知の風呂へと入る。
入った瞬間、私の顔は百面相になった。なんてったって、無表情なんかじゃいられないくらいのビリビリ攻撃が待ち受けていたのだ。今まで私が入った電気風呂というのは、浴槽の片側から電気が流れているタイプのものであった。しかしここは、大きさが少し控えめな長方形型浴場の、長い辺の両側面から電気が流れているタイプ。浴槽の中央に入ろうものなら全方位から電流に囲まれてしまうのである。まるで四面楚歌じゃないかと思うくらい、
そんなふうに電気風呂と格闘していると、「ここの電気風呂はね、こうやって入るんやで」という明るい声が。その声の主は、大浴場から電気風呂へと入ってきた、お喋りの好きなおばあさまだった。

実は、そのおばあさまは、さっき私が洗い場の隅っこで髪や体を洗っている時にも「そこ、上からポタポタ水落ちてくるから、気いつけや。」と2つ隣の席にいる私に向かって大声で伝えてくれた人だった(人は、これをお節介と言ったりもする)。新参者の私がめずらしく見えたのか、ここのお風呂についてのあれこれを、おばあさまは少しウキウキしながら教えてくれた。そんな姿につられて、私もビリビリする電気風呂の中でウキウキしながらその話を聞いていた。

ここにはサウナが無い。けれども、大浴場の温度がそれなりに高いので、暫くお風呂に入ってからのぼせてきた頃に水風呂に入ると、サウナの後の水風呂と似たような感覚を味わえる。外気浴のスペースは無いので、先ほど使っていたカランの場所に座って身体を休ませる。あぁ、これこれ。血流がドクンドクンと脈打って流れるあの感覚と近い。そのようにして、しばし休憩の時間をとった。

のぼせた感覚がなくなった頃に、いよいよお待ちかねの露天風呂!!いざ入ってみると、涼しい秋の夜風と温めのお湯が、私の心と体を癒していく。吹き抜けの天井を見上げれば、夜の空がこちらを見ている。時折、飛行機が通ることもあり、音と温度と風とで至福のひとときを過ごした。
(この日は、露天風呂では誰とも話すことなくそのまま上がったが、この日以降、露天風呂の中に入っている他のお客さんと話すことも多くなった。その時の話は、またいつか。)

一通り満喫したところで、私の体の中のポカポカケージも溜まったため、大浴場を後にした。

知らない土地の、知らない誰かと、同じ空間を過ごした日。
でも、この日を境に、「少し知った土地の、顔だけは知っている誰か」になったことで、お風呂だけでないもうひとつの温かさを覚えた私なのであった。



今日のところは、こんなもので。

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