小石岡なつ海

作った短歌の記録

小石岡なつ海

作った短歌の記録

マガジン

最近の記事

【連作】あかつきに

ムーミンは眉間に皺を寄せながら白夜に溶ける暁を見る 誰よりも柵の近くで手を振った乗りたいバスを見送りながら 海を越え花の都のぎゃるピース(渋谷の風がよぎったような?) 薄荷色のニューバランスの靴底につくはずのない泥のまぼろし ここからの言葉は遠い もう五分続く霞んだ酸素濃度は 隙間から熱い粘土が溢れだしそうにビブスを握る拳よ 四年後の歳を数える流星のごとく誰かの夢も運んで この星のそこここに散り向かい合うまた次にまみえるあかつきに

    • 現代歌人協会主催第53回全国短歌大会

      去る2024年10月27日、現代歌人協会主催 全国短歌大会に出席しました。 このたび、わたしの応募作が選者賞を賜り、大会にて評を聞かせていただくことができました。 素直に作った歌でしたので、前向きな気持ちを汲んでいただけてとてもうれしく、泣きそうでした。 これからも気取らず、気張らず、楽しいままに、楽しいうちに、短歌を作りたいと思います。 【加藤英彦選 選者賞】 希死念慮、ついてくるなら潮騒が聞こえなくなるまで歩こうか/小石岡なつ海

      • 自選短歌:2024年10月

        ただいまをくれないひとと居た頃のわたしはずっと旅先だった 残されたコーヒーミルが錆びてゆき「誰か捨てて」の誰かを担う 待ち侘びた予定を食った残業に報いるためにあしたも仕事 たじろぐな 波に合わせて息をせよ 雲に合わせてまばたきをせよ

        • 自選短歌:2024年9月

          裏庭の薔薇の画像を二枚撮るひとつは彼の分だと言って モノクロの記事のあなたにノルウェイの森の表紙の赤をあてがう 納豆の蓋に名前を書いておくそこにわたしが居るかのように 向かい風に刺すまち針として金のポニーテールをキャップへ通す

        マガジン

        • まとめ・連作
          11本
        • 企画・イベント・公募 参加の記録
          2本
        • 自選短歌
          26本
        • 発行物の記録
          6本
        • このnoteと作者について
          1本

        記事

          【連作】croquis:失調

          回収の目処の立たない手を貸してくらくら暮らしから踏み外す スーパーの閉店が来るガラ空きのパンの棚から何も選べず 半袖に後悔しても型落ちの夏の星座は寝そべっている 頭痛薬飲み過ぎていて匂いだけ黒霧島を鼻から吸った いにしえの慕情が夢枕に立つ長居しないで帰ってほしい 朝刊と落ちる速度を競り合って生活リズム地獄の初級 納豆の蓋に名前を書いておくそこにわたしが居るかのように 形骸化したブーケトス——ドライブで切り込む、ダンク——仕事へ戻る

          【連作】croquis:失調

          自選短歌:2024年8月

          陽炎にくれてやったのあずきバーあと一口が落ちてしまって 温厚な目のままなのに童貞を「捨てた」と言えるひとだったっけ 夏に手を引かれるような重たさで花火の殻の浮かぶバケツは シュー生地の潰れたものに刃を入れる誰かいますか大丈夫ですか

          自選短歌:2024年8月

          自選短歌:2024年7月

          はしごしてまで話すことなかったな齧るナッツの仲間のなにか 電車より先に到着した風が主線をえがくこめかみの汗 許される近い言葉が見つからず「かわいい」をまた舌で溶かした 神様のようなあなたも肉があり滲む指輪の跡を見つめる この胸で眠る者から息が透けわたしの脈が際立ってゆく

          自選短歌:2024年7月

          【選評】第77回 恋愛短歌同好会 ベストアクト六首

          歌人のtoron*さんによる企画、『恋愛短歌同好会』にて、選者を務めさせていただきました。 選評を掲載いただいた会報が公開されましたので、こちらでも紹介いたします。 恋愛短歌同好会会報 第64号 お名前を伏せた状態で何度も読み返し、選びました。 どの歌も本当にすてきで、この中からたった六首……という葛藤に苛まれながら、どうにか評を書くところまで漕ぎ着けました。 評も作者の方の思惑とかけ離れたことを書いていないと良いと願いつつ、もちろんとても好きになった歌です。 こんなふう

          【選評】第77回 恋愛短歌同好会 ベストアクト六首

          #2024年自分が選ぶ今年上半期の4首

          隠すべき心があるが泡盛の濃い透明に怯んでしまう 誕生日おめでとう もう親ですか苦手なトマトどうしてますか 食パンの柔いところを食べさせて素描のヴィーナスに光さす 訊くことがこわい気もしている母のこどもの頃の将来の夢 表題のTwitterハッシュタグにおいて、まとめた4首です。 なお、これまでの自選まとめはnoteのマガジンにも格納しています。

          #2024年自分が選ぶ今年上半期の4首

          自選短歌:2024年6月

          ひととして至らぬ夜に虫の息ほどのラジオを枕に溢す 経験は選べたはずだあたらしいシャンプーに酔う朝方の雨 向こう見ずにだけ備わるかがやきは川面を切ってさよならもなく 我々の初夏はふたつの意味を持つファーストサマー的ニュアンスの 境目は意識するほど溶けやすく夏至の真昼に知る花呼吸

          自選短歌:2024年6月

          私家版歌集『好きな季節がない』通販開始のおしらせ

          私家版歌集『好きな季節がない』の通販受付を開始いたしました。 BOOTHの匿名配送システムを利用します。 ご購入者さまと送り主、双方の個人情報が渡らない方法でお求めいただけます。 不慣れなためタイミングによっては少しお待たせしてしまうかもしれませんが、お手元に置いていただけましたら嬉しいです! 歌集『好きな季節がない』 A6/86頁/250首収録 通販価格:630円 2023年までに発表した短歌のまとめ本です。 まとめるにあたり、手直しした歌もあります。 好きなよ

          私家版歌集『好きな季節がない』通販開始のおしらせ

          自選短歌:2024年5月

          やっと手に入れた機械のからだでも雨には弱いままだ、ルーシー 世界より自分のために返り血を正義の対は正義しかない 生き急ぐことは彩度を伴って躑躅がガードレールを包む 人生のどこで貼るかもわからない薔薇のトーンの備えだけある 転調ののち繰り返すサビに沸く何の話でそうなったっけ

          自選短歌:2024年5月

          私家版歌集『好きな季節がない』

          きたる5/26(日)、COMITIAに出店いたします。 私家版歌集の販売を行いますので、ぜひお立ち寄りいただけましたら幸いです! 以下、出店および販売予定のお品のご案内をまとめます。 COMITIA出店のご案内2024/05/26(日) COMITIA148 東京ビッグサイト 東2ホール【し40b】 サークル名:小石岡なつ海 販売品のご案内歌集『好きな季節がない』 A6/86頁/250首収録 会場価格:600円 通販価格:630円予定 2023年までに発表した短歌

          私家版歌集『好きな季節がない』

          #サンリオ短歌

          またねって言って数歩で振り向けばまだポチャッコの肉球ゆれる (ポチャッコ) 引きずった毛布のなかはあたたかく好きに遠慮は要らなかったね (まるもふびより) どの岐路も能動的でいるように赤いリボンを心に飾る (ハローキティ) 焼きたてをつまみ食いして運ぶからきみと共有できるおいしさ (ポムポムプリン@館のレストラン) 寺嶋由芙さんによるRadiotalkでの「サンリオ短歌会」へ投稿した歌です。 サンリオ、そしてポムポムプリンを深く愛するゆっふぃーの企画に、同じくサンリ

          #サンリオ短歌

          自選短歌:2024年4月

          コーポって感じのきみの部屋いつか忘れたい日がくると知りつつ 去り際で分かる わたしは原作にいない劇場版のキャラだな 久方の酒にとろけて月面に憧れすぎているかもしれず はりぼてのはりぼてだった交際も楽しかったな今しかなくて レンタカー返すときまでふたりだよ眠くなったら眠っていいよ

          自選短歌:2024年4月

          自選短歌:2024年3月

          横切った明治通りで見る雨の夜は地面がずっと明るい 長雨を済ませた空のあざやかに慣れないものをこわいと思う お日様のようだと百合を飾るひと花言葉など知らなくていい 満開を逃してきみは謝ったここが何処でもよかったけれど あすよりも先を思っている春のきみの海馬と仲良くしたい

          自選短歌:2024年3月