【スピッツ2】「死とセックス」発言はイキってただけらしいetc.【書籍】
みんな、新しいスピッツ本を買おう。
ロキノン誌などでのスピッツのインタビューをまとめた本「スピッツ2」が出た。雑誌をいちいち買う習性のない人間として、また、かなり歴史が長いバンドなので、後追いのファンとして、ちゃんと紙媒体でスピッツの発言がまとまっているものは聖典のようにありがたい。真偽不明の逸話じゃないし、あいまいな引用しなくても済むし。
前回の同じ趣旨の本「スピッツ」はデビュー初期から、8枚目のアルバム「フェイクファー」(1998)のインタビューあたりまでがまとめられていた。それ以降から現時点までのものが載っているということで、「25年ぶり」とあるように、重量はあまり変わらないが、かなり長い経過を追っているのが感慨深いところだ。
477ページあるが、級数がデカいので安心。僕はこの本が届いた夜のうちに読み切った(多少夜更かししてしまったが)。
そして、メンバーの写真集ゾーンもあるので、その分は文字もないし、顔ファンもいらっしゃいということなのだ。
面白かったとこ5選
ここでは個人的に面白かった箇所を引用して紹介しよう。そして、まだ購入していない人にぜひ手に入れていただくために、勝手にマーケティングを担当する所存である。
1.「中村一義くんが出てきた時とかはちょっとヤバいなと思って…」(2000)
最初は、『ハヤブサ』(2000)の頃のインタビューから。
ここ、インタビュアーの熱量とマサムネさんですごい温度差あるみたいで笑える。おもろい話だけど。話題は音楽業界とかその立ち位置、志向性の話へ。ガワは普通だけど本質はドロッドロだったりするスピッツの音楽性は、確かに、大ブレイクを果たした頃のアルバム『ハチミツ』(1995)でも相変わらず。
僕は、贔屓のミュージシャンが他の贔屓のミュージシャンの名前を出している文章フェチであるので、こういうお話は大好物である。まあ、僕のリアルタイムの話ではないが、確かに宇多田ヒカルとか椎名林檎とか他にも歌姫枠みたいなのが多く登場したのが、90年代末から2000年代初期にかけてだ。
同じジャンル、バンド界隈よりは、異なるジャンルの方が気になるというようなことを言っていると思う。
僕が中村一義が好きだからということにかかる部分が大きいが、草野マサムネが中村一義に影響受けそうでヤバいと思って聴くのやめたというエピソードが、面白すぎてしんどい。誰が誰に影響されかけてんだよ。音楽業界人とか、雑誌を読む層とかにはネームバリューあったんだろうけど、一般的な知名度は皆無だと思われるし。
2.『三日月ロック』のあの曲のギターについて(2002)
2つ目は、『三日月ロック』(2002)の頃のインタビューから。
椎名林檎風だったんだ。思いも寄らなかったが、なんか、変なカタカナ使ってる感じ?「ローテク」も「ロマンティカ」も意味は分かるが、聞き慣れない言葉だ。
ブランキーだったんだ。そして、「ハネモノ」ってそんなバンドバンドした曲だっけと聴き直してみた。ぐうの音も出ないほどに、どシンプルなバンドサウンド構成だった。「Sweet Days」(1998)といえば、ブランキーらしくないくらいにポップな曲だけど、めっちゃ好き。
図らずも、また中村一義が出てきた。
「キャノンボール」(2002)のギターリフとは全然違うだろと思ったが、どうやら、その裏で鳴ってる地味な方の、バッキングギターのことのようだ。確かに似てる。「キャノンボール」の方はDとAのパワーコード(たぶん)の繰り返し、「ハネモノ」の方ではGとCのコード(パワーコードっぽいけど、1度&5度ではなく、1度&3度で弾いているっぽい、たぶん)の繰り返しだ。キーが全音1つ分違うだけで、ほぼ同じだ。まあ、両者共によくあるギタープレイだが。よくこんなの気づいたな。
あと、くるりの「ばらの花」(2001)の名前も出てきた。ロキノン厨腹上死といった豪勢なラインナップだ。
まあ、やはりよくあるギター始まりのパターンすぎて、似てるとも何とも思わないが、とりあえず「ばらの花」好き。そういえば、このフル動画出たのは今年(2023)らしい。だいぶ出し渋ってたんだな。
3.「『スピッツの歌詞意味がわかんねえ』って…」(2007)
次は、『さざなみCD』(2007)の頃のインタビューから。
僕自身は9・11同時多発テロ事件もリアルタイムじゃないので、そんなに世相に明るくないが、そんなに長いこと尾を引くものだったんだと驚いた。それ以降のイラク戦争とか含めて、アメリカオラオラ期間だったという認識はあるけど。
そんで、スピッツ的にも、確かに『スーベニア』(2005)と『さざなみCD』のころは、暗い部分は少なくて、サウンドもJ-POPの典型に比較的寄っていた感じがある。それ以降全然出てこなくなったストリングスがバンバンでてくるのとかが特徴的だ。
あと、スピッツの歌詞が意味分からんってこのころからみんな言ってたのか。2007年のネットだったら、mixi?2ちゃんねるとか?著名人が匿名掲示板なんか見てたら病みそう。
これラジオでそんなこと言ってたらしいんだけど、特に初期の歌のシュールさ、意味不明さは、Pixies の歌詞の影響らしい。確かにあのアメリカ人(ブラック・フランシス)、訳わかんない歌詞を絶叫してて怖いけど、大好き。スピッツとも共通しそうな歌詞かなと思うのは、アルバム『Surfer Rosa』(1988)に入ってる「Break My Body」とか。
ちなみに、僕が初めて聞いたとき意味が分からなさすぎて怖かった歌1位は、1stアルバム『スピッツ』(1991)の「テレビ」。
4.『小さな生き物』で最初に作った曲(2013)
次は、『小さな生き物』(2013)の頃のインタビューから。
まあ、ここを取り上げたのは、僕が「スワン」という曲が好きすぎて、ちゃんとこうやって語られているのが嬉しいからだ。その好きな理由というのか、メカニズムみたいなものは引用文のとおりなのだと思う。僕は、スピッツのサブスク配信が始まる前から、この曲だけ落として聴きまくっていた。
この前後でも語られているが、やはり創作の上で、震災の影響というのはかなり大きかったようだ。僕はその重さを「スワン」に一番感じ取れる。かくいう僕はその当時のことについて、「なんか授業止めてみんなでテレビ見たっけ」とか「なんかACジャパンのCMが多かったなあ」とかしか覚えてないけど。
ともあれ、「スワン」、素朴だし地味だけど好きな人多そうだ。あと、4曲目の「ランプ」も似た曲調だけど良いよね。いや、このアルバムはそもそもマジで全部良いんだけど。
個人的に、このインタビューが一番「そうだったんだ」と驚く内容が一番多かった。
5.「あれはなんか、頑張ってイキって発言してたなと思って(笑)」(2023)
最後は、新作『ひみつスタジオ』(2023)のインタビューから。
これ、一番聞きたかったやつ!そうだよな!ってなった。
スピッツの歌詞を考える上で、スピッツの歌のテーマは「セックスと死」発言というのは、なかなかインパクトがある上に、特に初期の作品を聞くと「確かに!」ってなるので、すごく有名だ。
(ちなみに、「セックスと死」でググったら、スピッツの歌詞を考察している個人ブログが候補のトップにヒットする位には有名な言説であるようだ。ぜひ試してみてほしい)
その自分の発言を、昔ちょっとイキってただけって言っちゃう正直さが面白い。あと、個人的に「イキる」という語彙をマサムネさんが使ってるのも面白く思えてしまう(『醒めない』(2016)の「ハチの針」でも「イキがれ」って歌ってるけど)。その語彙、僕の通っていた荒れてた中学校の同級生からしかほぼ聞いたことがないなというのがあるので。
でも、これは僕も思ってた。ほんとに。「セックスと死」っていうのは、その概念をどこまでも延長したら、なんでもそこに帰納してしまえる感じはある。でも、少なくとも2010年代くらいのからの作品には、それだけじゃあまりに狭いというか、そういう虚無とは遠いものを多く感じる。そこにはもう全然留まってはいないという感じ。やはり、字面通りの「セックスと死」スキームで考えてしまうのは乱暴だよなあ、とか考えて歌詞を見つめていたりしてたのだが、今回の発言で、初めてちゃんと答え合わせしてもらったような感じがした。
でも、『ハヤブサ』あたりまでとか、『ハチミツ』あたりまでとか、いろいろ区切りは考えられるが、その辺りの作品までしか聞いてなかったら、「セックスと死」が一大テーマと言われても、イキってるとは全く思わないし、むしろヘドバンして首肯する。
終わり
なんだか引用しすぎたかもしれない。そういうルールに疎くて、怖くなってきたので終わります。
内容盛りだくさんすぎるので、ぜひスピッツフリークは購入して読んだ方がいい。義務感とかじゃなく、普通に面白いので。
【余談】アマゾンのレビューで若干の低評価があるが、どうやら梱包の問題で、帯が元から破れてた、汚れてたとかという報告が多かった。そういうの気にしない、というか「物を大事にするの苦手民」な僕のとこに来た商品は、なぜかすごく綺麗だった。運試しのつもりで、みんなもアマゾンで買ってみてらいいかもしれない。
ということでした。ありがとうございました。