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満を持して復活したのに躁鬱みたいになったミスチル【DISCOVERY】【Q】

国民的バンドといっても差し支えないであろうMr.Children。全然興味ない人からしたら「あーなんか感動的な感じの歌歌う人ね」みたいな感じでしょうか。やたらめったら売れまくってるので、バンドの形態ではあるけれど有名曲にはロックンロール!って感じの曲はほぼないですよね。

ブレイクした頃を知る人たちにとっては「innocent world」とか「tomorrow never knows」とか「名もなき詩」とかのイメージが強いのでしょう。私のような現在学生くらいの世代の人間には「HANABI」が一番浸透していますね。

自称音楽好きの身分の私なんかはどのアルバムが名盤なのかという議論が好きでして、それはミスチルのディスコグラフィーも例外ではありません。

ベタに(?)ブレイク直後で一番売れた「Atomic Heart」(1994)でしょうか。ブレイク後のパブリックイメージを半ば逆行するようにダークな世界を提示した「深海」(1996)でしょうか。しばらく方向性を模索し、迷走してから良質なポップスに回帰した「It's Wonderful World」(2002)や「シフクノオト」(2004)もかなり評判がいいですよね。

私としては活動休止から復活し、音楽的迷走期ともとれるサウンドを展開していた「DISCOVERY」(1999)、「Q」(2000)の2つがとても好きです。

後者はミスチルとしては珍しくオリコンチャート1位を取り損ね(浜崎あゆみに負けたとか)、ミリオンヒットも逃すという、売上的に絶不調の時期でしたが、これを名盤とする意見はとても目立ちますね。それだけ世間の期待とは離れた自由なところで音を鳴らしていたアルバムなのだと思います。

一方、前者が一番好きだと取り上げる人はあまり見かけません。何故なんでしょうか。贔屓するわけではなく、私がミスチルの中で一枚選ぶとしたらこの「DISCOVERY」になるのですが。

そんなわけで今回は、この「DISCOVERY」に捧ぐラブレターのようなものを書き連ねたいと思います。

まず「DISCOVERY」発売までのミスチルの活動をおさらいしてみます。

ミスチルは1992年にメジャーデビュー。1993年末に発売された「CROSSROAD」がじわじわ注目され、初のミリオンヒット作となるブレイク。1994〜97年前半まではCD売れまくりで大金を動かすバンドとなり、超多忙生活。そんなバンドを取り巻く諸問題に苦しみ、1997のコンサートを最後に一旦活動休止。

一年半ほどのブランクを経て1998年末にシングル「終わりなき旅」をリリースして本格的に活動再開。翌年の1999年はじめに先行シングル「光の射す方へ」をリリースし、その直後に「DISCOVERY」が発表されます。

ここまでの展開をみると、復帰した明るい希望のミスチル!みたいなアルバムが期待されたと思うのですがは実際このアルバムのオーラはどんなものでしょう。

復帰シングル「終わりなき旅」でそんな期待には完璧に応えてみせたと思います。じゃあ他の曲は?というと、これが明暗分かれていて、復帰前の暗さと攻撃性そのままにサウンドがヘヴィロック的に強化したみたいな曲もあります。そして私はそんなダークさがとてもカッコよく思えて大好きです。

アルバムジャケットはこんなの。なんとなく復帰後で病み上がりだけど頑張るよ!みたいな雰囲気にもとれますね。後ろの採掘機らしきオブジェや白鳥などをみると、そんな希望的な意味がありそうだと勘繰ってしまいます。

でもミスチルのバックグラウンドを知らずにこれを見たら、めっちゃ機嫌が悪い不貞腐れた厭世的なロックンロールバンドにも見えそうです。

以下曲ごとにつらつらと語りたいと思います。

1.DISCOVERY


早速サウンドが暗いです。ずっとギターリフが鳴っているというのはミスチルには珍しいですね。無機質なギターリフから始まり、暗いバッキングのストロークが入り、3台目のギターが歪んだギターソロで唸る唸る。歌に入る前にこんないかにもロックンロール的なことをやりだす時点で他のアルバムと一線を画しています(他のアルバムはインスト始まりだったり、しっとり系とか元気系が多いイメージ)。

歌詞はなんとも深い意味はなさそうですが、これから旅の始まりだという感じは受けます。でも消して明るい印象はないです。険しい道をずしずし歩いて行くような感じです。

そして終盤にはDISCOVERYと何度も叫んでいますが、そもそも何が「DISCOVERY」なのかよくわかりません。歌詞の中で何かを発見したようには思えないのです。強いて言うなら

心に翼を持って
この愛を両手に抱いて

というところの「翼」と「愛」を発見したというところでしょうか。その割にはこの後もだいぶ暗い曲が続きますが。

というか1曲目がこんなに暗くて地味で惹きがないとそりゃあまり語られないアルバムになるんでしょうね。私はこの曲大好きですが。

2.光の射す方へ

先行シングル。7分くらいある大曲。打ち込みが多用されていて、デジタル的な感じもありつつ、ヘビーなロックにもなっています。こちらはツインギターでリフを弾いているようです。

Aメロはアコギのストロークも聞こえるほど、打ち込みの音と少しの装飾音というくらいで、割と大人しめです。

Bメロからサビになるときに唐突な感じがするのが逆に好きです。サビだけ無理矢理ポップにしてるみたいな力技を感じます。

歌詞はやはり暗いです

蜘蛛の巣のような高速の上
目的地は5km 渋滞は続いてる
最近エアコンがいかれてきてる
ポンコツに座って心拍数が増えた

AメロBメロではこんな風に主人公を不快にさせる日常の場面を散文的にひたすら書きまくっています。

それでもサビの最後には「光の射す方へ」叫んでまとめてしまいます。

2番のサビ終わりにいきなり演奏が止み、ガラッと雰囲気が変わります。コード進行的にはサビと同じなのですが、随分とテクノの香りがしてきます。エフェクトで処理したくぐもったボーカルがCメロを歌い、そのままの声で1番と2番のサビを続けて繰り返し。かなり変わった構成になっていると思います。普段のミスチルだったらきれいな大サビとか用意してくれるのに、今回は無愛想ですね。

アルバム全体的な話ですが、打ち込みを多用したサウンドというのはこのアルバムの前作との大きな違いになっています。

3.Prism

上の動画は太宰治の「人間失格」をアニメ化したものを素材にした動画です。とても雰囲気にあっています。

攻撃性などは引っ込んで、ひたすら暗く寂しい曲です。なんかこのまま死んじゃいそうです。歌詞は結構シンプルな失恋ものですね。普通のミスチルなら恋愛中の過去の思い出をきれいに切り抜き、「切り替えてうまくやっていくよ!」みたいな締めをしそうですが、この曲はひたすら自分の内面に溺れてしまっているようです。私はそんな歌詞の方が刺さってくるので好きです。

少し話は逸れますが、Radioheadというイギリスのバンドはご存知でしょうか。なんかアート志向で暗い曲を歌いつつ音楽性を発展させ続け、面倒くさい音楽好きたちを納得させてしまうすごい人たちです。ミスチルの「DISCOVERY」より前のレディオヘッドの曲「Let Down」と「Prism」がかなり似ていると言う指摘を見たことがあります。  

具体的に言うと、はじめのギターリフの音色などの雰囲気、Aメロでのドラムとベースのパターン(これが実はかなり似ている)、センチメンタルで暗い歌詞もそうでしょう。

こういう、リアルタイムの海外アーティストから影響を受けて即座に作品に反映させるというやつを、ミスチルもしていたと思うとすごく面白いですね。そしてどっちもすごく切なくて名曲。

4.アンダーシャツ

今度はなんだかごっさファンキーになってきました。
こちらはなんとなく活動休止前のアルバム「BOLERO」(1997)の頃の雰囲気がする、社会風刺的な歌詞が散りばめられています。だけど、このアルバムの中ではキャラが薄めな曲。

白眉はギターソロですね。ミスチルで「いかにも」なギターソロってあまりないのですが、これは純粋にかっこいいです。ちなみにライヴヴァージョンの方が、音色の生々しさもフレーズも相まってさらにかっこいいです。


何から何まで意味なく思えて
紳士なふりして静かに飲むGIN

桜井さんジンが好きだったんですかね。概してかなり度数の強いアルコールらしいですが、ストレスの多いであろうアーティストにはもってこいなんでしょうか。

当時の「うたばん」という歌番組でもジンを飲みながらトークしていました。

5.ニシエヒガシエ

活動再開後のミスチルは、世間的には「終わりなき度」においてその復活が認識されました。しかし、実はミスチルは活動休止中にシングルを発表するという謎ムーヴをかましていました。そのくせメディア露出は全くしないので、活動休止は嘘とは言えないのですが。そしてそのシングル曲こそが「ニシエヒガシエ」です。

そしてこれが最高にロックです。私がカラオケで歌っても全く盛り上がりません。やはりギターのリフのカッコ良さには逆らえません。

これまた打ち込みやサンプリングが多用されている様ですね。この曲が一番それが顕著です。だからこそシングルで切ったのかもしれませんね。それと、ミスチルは打ち込みとアコギをよく組み合わせる傾向があるかもしれません。

この曲はライブでの演奏率が高く、その度にかなりアレンジが加えられています。私はシフクノオト期のライブのバージョンが一番狂っていて好みです。

片一方は天使 もう一方は悪魔で
分裂しそうなんだ 抗鬱剤をちょうだい

なんて歌っておりますが、全体的に歌詞は躁のほうに行ってると思います。

張り付けの刑になったって明日に向かって生きてくんだって

磔ではなく、張り付けなんですね。どんな刑でしょう。プライベートまでマスコミに追いかけ回されていた桜井さん本人のことでしょうか。

6. Simple

アルバムの折り返し地点に来て、ようやく、唐突にミスチルらしいあったかい曲が来ました。アコギのイントロからしてすごく安心します。歌詞も最初以外暗くないので落ち着きます。

10年先も20年先も君と生きれたらいいな

こんな単純すぎるサビが、アルバム前半のカオスな世界からのギャップによる効果ですごく印象的ですで愛おしいです。ギャップ萌えです。ミスチルのくせに歌詞にひねりがほとんどないです。でもほんとにいい曲。

7.I'll be

このアルバムの後に「I'LL BE」というシングルがリリースされるのですが、それのバージョン違いで生まれたのがこちらのアルバムバージョン。こちらは9分越えの大曲。元のノリの良いロック風な音から、すごくスローに静けさからの盛り上がりを魅せる曲に変身しています。

アコギとピアノだけで始まり、一番が終わる頃さりげなくギターとドラムも加わり、ストリングスも入ってくると、2番サビで全楽器が本領発揮してダイナミックさが演出されます。特にドラムのドコドコ具合は半端ないです。

こちらはとにかく歌詞を味わっていただくのが良いと思います。全部の歌詞が響きます。
個人的に好きな歌詞は

渇きを癒せない砂漠のようになんだって飲み込んでしまえる
そんな漠然としたイメージだけが今日も僕を支えてんだ
いつも心にしてたアイマスクを外してやればいい
不安や迷いと無二の親友になれればいい

終わりなき旅と並ぶ感動の人生讃歌であり、サウンド的なカタルシスでは随一です。

8.#2601

はい、問題曲です。前曲「I'll be」の余韻を意図的にぶった切るように始まる、完全にヘビーロックなギターリフ。ミスチルで一番ロックな曲といえばこれじゃないでしょうか。これはドラマーのJENのツアー中のホテルでの暮らしについてと聞いたことがあります。

壊れかけた夢の続きは誰と見る?
やぶれかぶれのまま今宵は誰と寝る?

ミスチルのイメージとは真逆の、ホテルに女をかき集めてドンちゃん騒ぎしてとっかえひっかえしてる、心が不安定のロッカーを主人公にしたような歌詞です。言ってることも所々支離滅裂です。

また、このサビの絶叫は流石に喉の心配をしてしまうほどですね。

間奏で7拍子が出てくるのが面白いです。7拍子もそれに貢献してるのですが、この曲の間奏の完全に狂っている感はサビの絶叫に負けず劣らずのインパクトがあります。

9.ラララ

「Simple」に次ぐ、そして最後となる休息スポット的楽曲。アコギはじまりはやはり落ち着きます。

ちっぽけな縁起担いで右足から家を出る
電車はいつもの街へ疲れた体を運ぶ

こういう小さくてつまらない人生。何かが足りないのでしょうか。

そうしているとだんだん社会への懸念・不安感を歌い出します。

ニュースは連日のように崖っぷちの時代を写す
悲しみ 怒り 憎しみ 無造作に切り替えて行く

でも1人のちっぽけな人間としての視点に立ち返り小さな幸せを見出そうとするあたりにミスチルの歌詞の変化が見えます。

なくてはならぬものなどあんまり見当たらないけど
愛する人も同じように今日も元気で暮らしてる
1人じゃない喜び 何はなくともそれで良しとしようか


10.終わりなき旅


このアルバムで一番有名で目玉である、活動復帰を知らせるシングルとなったこの曲。スポーツ選手などに支持されがちなミスチルですが、この曲もそんな壁に直面している人に響く歌詞ですね。

大曲ですが意外と使用されてる楽器はシンプルで、基本的にメンバー4人の音とストリングスだけですね。ただ、曲の構成はすごく面白いです。何度も転調している、というか転調頼りでAメロサビ間奏大サビを切り替えて行くという変わったやり方です。

やはりコード進行が面白いのでギターをかき鳴らしながら歌うととても気持ち良いです。

11.Image

終わりなき旅で締めると風呂敷を広げすぎた感があるかもしれませんが、この曲によってきれいにまとめられますね

アコギとトレモロのかかったギターから始まるAメロはとても優しいです。でもBメロは不穏な雰囲気を纏います。ConB♭→Am7→A♭…とルート音が下がって行くコード進行と、なにげないきれいな情景描写の歌詞との組み合わせがどことなく怖いです。

そのあとまた優しいAメロに戻り間奏を経ると転調して新たなメロディーに。ドラムやベースも躍動し始めストリングスなんかも入ってきてとても力強いサウンドだな〜とか思ってると、ラッパやら色々混ざり始め、不穏なBメロにそのままなだれ込みカオスな状況に。

飛び込み台の上 僕らは否応なく
背中を押され落ちてくんだ
溺れそうな魂 水しぶきをあげて
息絶え絶え水面をかく

今度は歌詞も不穏です。

でも最後唐突に静かなAメロに豹変。 

楽しく生きて行くImageを膨らまして暮らそうよ
この目に写る全てのことを抱きしめながら

綺麗なささやかな日常も、恐ろしい社会の現実も、ですよね。さっきまで息絶え絶えなImageにうなされていただけあって安心しました。

何はともかくキレイにまとまったアルバムでした。

よく暗いアルバムとして「深海」が挙げられるのですが、音的な重さはこちらのアルバムに軍配が上がるのではないでしょうか。ロックとミスチルのポップ性が拮抗してるか、あるいはロック寄りともとれるアルバムでした。

ロック的アプローチと大衆が期待するミスチル像があまり合致しなかったために見過ごされがちになるアルバムだと思うのですが、ロック好きならこのアルバムがおすすめです。

次作となる【Q】についても、面白い作品なので、いつか書き綴るかもしれません。

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