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隠されたもう一つの生命と死

今まで、誰にも言わず隠してました。

今日、この日が私の
誕生日を迎える日だと言う事。

歳をとる事の尊さ。
年々と深く感じる様になりました。

祝われる事に慣れていない為、
誰かに聞かれても絶対に言わなかった。

だから、今日初めて発表しました。

なぜかと言うと…

きまぐれだ。

今日という日は…

祖父と祖母の命日だからです。


これは、母親から聞いた話です。

当時17歳の母は、
ある男に捨てられた。

お腹には私がもうすぐ、
産まれるというぐらいに。

認知すらしてくれなかった。

私を産んだその時、
祖父母は病院にいたそうです。

初孫である、
私をたいそう愛でてくれた。

その後、
病院の帰りに、
交通事故にあいました。

祖父母は帰らぬ人となったのだ。

母親には、姉がいるそうです。
私にとっては、叔母になりますね。

叔母と親戚一同は、
母親の身勝手な行動のせいで、
祖父母が死んだのだと責めたそうで、
愛想つかせて、
勘当として絶縁を切られたとの事です。

それを聞いたのは…

私が17歳の誕生日。

母が私を産んだ歳。

祖父母の17回忌の日。

それまで、知らなかった。
母親はなぜ孤独に一人なのだろう。
祖父母の存在も、気にはなっていたが、
母親に聞く事はできなかった。

それまで、誕生日には、
いつもショートケーキを買ってくれた。
ろうそくもちょっと太めの一本だけである。

普通なら歌を歌って、ケーキに刺さってる、
ろうそくをふーっと吹き消すのだろうが、
我が家は違っていた。

母親は、ショートケーキと、
別の皿にろうそくを付けて火を灯す。

歌は歌わない。
母親は、手を合わして火を見つめて
しばらく何かをつぶやいていた。

そしたら、母親は元気に
よし、火を消して!と言い、
私はフッと火を消すと、食べよ!
とショートケーキを食べるのだ。


17歳の誕生日は、
私はもう昼間は働き、
夜は夜間高校に通うようになっていた。

学校の給食で、夜ご飯は食べない。
だが高校から帰ったら、
珍しくホールケーキを買っていた。

母はろうそくに火を付けると、
ずっとろうそくの火を見つめながら、
語り出した。

父親の事、祖父母の事、
叔母や親戚に絶縁された事を。

母親が17歳で私を産んだのは、
なんらかの手続きで知っていた。

だから、てっきり同じ歳になった、
私を祝うつもりで、ホールケーキを、
買ってくれたのだと思っていた。

母はずっと火を見つめ、
そう言う事だからお前も一緒に、
天国のじいちゃんばあちゃんに、
手を合わしてくれるかい?
とボソボソと言うのだ。

私は、初めてろうそくの意味を知るのだ。

しばらく母と手を合わせ、
一緒に黙祷をし祖父母に、
ここまで大きくなりました。
今まで知らなくてごめんなさいと謝った。

そして、母のよし!の言葉で、
ろうそくをフッと消した。

ホールケーキを初めて切る。
ぐちゃぐちゃになった。


私は今まで、
母だけに祝ってもらっていた。

そう思っていた。

だが、おじいちゃんもおばあちゃんも
一緒に祝ってくれてたのだと思えた。

ぐちゃぐちゃのケーキの半分は、
祖父母のお供えとして残して、
残りの半分は、
母と泣きながら食べた。

母親は、私を産んだばかりだ。
祖父母の葬式には、
行きたくても行けなかっただろう。
もちろん、
線香すらあげる事も出来ず終いだろう。

だから、私の誕生日であり、
祖父母の命日に、ろうそくを灯し、
いつも一人で祖父母を偲んでいたのだ。

母親は、
いつもろうそくの火をずっと眺めていた。
多分そこに、
祖父母の面影を探し、
思い出していたのかもしれない。

17歳になっても、
まだ自分は未熟者であった。


こんな歳に、男に捨てられ、
母になり、両親を亡くし、
そして、絶縁をされるのである。 

母は想像出来ないほど、
壮絶な人生を送ってきたのだろう。


今はもう母親はいない。

それから毎年、誕生日には、
一人で、こっそりと
小さめなホールケーキを買い、
ろうそくを灯し、火を眺めながら、
祖父母と母の面影を探し思い出す。
そして手を合わして、偲び。
ゆっくりとフッと火を消すのだ。

ケーキを切るのは、
年々うまくなっていた。
と、言っても4等分だから簡単である。

4つの皿にケーキを分けて、
間隔を空けてテーブルに置く。

そして一人で

よし!食べよ!

と泣きながら食べるのだ。

今日も多分…いや、
間違いなく同じだろう。

いつもイチゴだけど、
違うのにしようかな…。
いや、やっぱりイチゴだな。

話したい事が、
たくさんあるから、
ろうそくは長めのにしよう。

この泣き虫は昔から、
なかなか治る事はない。

すぐ泣いてしまうのだ。

よし、
テッシュも新品用意しとこう。

私の誕生と祖父母の追悼、
そして苦労かけた母親への感謝。

生命と死。

私はこれを背負って生きていく。

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