
親御さん。
ちょっと、どういう経緯でか、
話すと長くなるので割愛させていただきます。
私は、障害者の作るパン屋さんで、
働く事になりました。
そこには、主に知的障害の方達が、
せっせと、パン作りをしていました。
私は、補助的な役割で、一緒に、
午前に楽しくパン作りをして、
午後に色んな所に行ってパンを売ってました。
みんな、とても個性的で、
会話するのが、楽しくて、楽しくて。
まあ…時に急に怒ったりしますが…。
そんなんで、一人のユウコと言う、
障害者の方に、気に入られ、
デートのお誘いをいただきました。
パン屋の近くに、あるイベントが、
開催されてて、そこに行こうと言う。
いいね!楽しそう!行こう!と、
次の休みに行こうと約束しちゃったのだ。
私は、以前、身体障害者の方と一緒に、
暮らしていたせいか、そこらへんが、
ちょっとズレていたのです。
そんな約束をした、次の日。
職員に、呼ばれてしまいました。
勝手に、利用者と約束しないで下さい!
利用者の親御さんから、クレームが、
来ました、もうここで働けないって!
あなたが勝手な事するからですよ!
なんで、そんな事したんですか!
私は、えー!ダメだったの?
だって、もういい大人だよ?
そんながんじがらめにしていいの?
やましい事なんて、なんにもないのに…。
と、思ったが、怒られたので、謝った。
本当にすみません…失礼しました…。
それは、利用者との個人的な関わりを、
してはいけないと言う事ですか?
あの時、とても楽しそうにしてました。
そんな中、断る決断は私には出来ません。
それには、正直…従えないです…。
そう伝えたら、速攻でクビになった。
はて?なんで?そんなにダメなの?
厳しい世界なんだね。
親御さん絡むと厄介なのか…。
私には、向いてなかっただけだ。
ふーやれやれ仕事…探さなければ…。
そして、次の休みの日、ユウコと、
約束したもんだから、とりあえず、
そのイベント会場で、待ってみた。
そしたら、ユウコは親御さんと来た。
ユウコは、私を見つけると、
喜んで駆け寄ってきた。
だが、親御さんは、そんなユウコに、
こっちに来なさい!と叫び、怒るのだ。
こわい…さすがクレーム入れるよな…。
偶然に会ったとしても、そんな態度なの?
だが、ユウコは私の側にいて離れない。
親御さんが、こっちに来て怒る。
すみませんけど、あなたがユウコと、
勝手に約束した人ですか?
あなた、何考えてんですか!
非常識にも程があります!
ユウコをこちらへ渡して下さい!
えっ!こわっ!渡すってモノじゃない…。
だが、ユウコは、私から離れようとしない。
親御さんに、
この通り、ユウコさんは、とても喜んで、
私から離れようとしません。
どうです?一緒にイベント楽しみましょう!
ユウコさんも、その方が楽しいですよ。
だが、親御さんは、頑なに拒んだ。
あなたね、立場わかってるんですか?
たかが、パン屋の下っ端のくせに、
そんな発言は許されない事ですよ!
また、パン屋に電話しますよ!
あっ!親御さんのせいでクビになったのに…
知らないんだ…また電話されてもな…。
困った…どうしよう…。
すると、ユウコが、癇癪を起こした。
暴れて、自分をかじったり、引っ掻いたり、
声を荒げて、自傷行為をし始めたのだ。
親御さん達は、周りの目を気にして、
こら!ユウコに、やめなさい!ほら!
みんな迷惑だって言ってるよ!
いい子だから、もうやめなさい!
と、ユウコをなだめていたのだが、
ユウコは聞こえないかの様にやめない。
私が、暴れるユウコを抱きしめる。
ユウコは私を、
引っ掻いたり、噛んだりしたが、
それでも、落ち着くまで、抱きしめた。
そして、
ユウコさん、大丈夫だよ。
落ち着いて下さい…。
ユウコさんは、何も悪くないですよ。
ほら、見て下さい!
このイベント!
楽しそうでしょ?
ユウコさん、行きたがってたもんね。
早く行きましょう。
約束。したでしょ?
すると、ユウコは、だんだん落ち着いて、
私の手を引っ張り、早く行こうと言う。
私は、親御さんに、
ユウコさんの希望です。
叶えてあげてくれませんか?
私は、あのパン屋は辞めました。
なので、私は、ユウコさんの、
お友達だと、思ってくれませんか?
親御さんは、
ユウコは普通の人間ではないんです!
私たちが、ついててあげないとダメなんです!
勝手にそんな事されても困ります!
ユウコは、知的障害なので、
自分の言ってる事がわからないんです!
それを鵜呑みして…あなたは、何ですか?
これ以上、迷惑かけないで下さい!
これは…なんと言うか…どうなんだ?
私には、親御さんの言ってる事が、
どうしても理解できなかった…。
だって、ユウコは普通の人間だし…。
もういい大人だし…過保護すぎないか?
ユウコは頭がいい。
パン作りでも、神業を使うすごい人。
指示しても、ちゃんと聞いてくれてた。
だから、言ってる事は理解してるよな…。
ユウコの言葉を信じれないんだな…。
誰にも迷惑かけてないのに…。
でも、こればっかりは、親御さんの、
考えを尊重しなきゃいけないよな…。
私は、
ご迷惑をおかけして、すみません。
ちょっとだけ、ユウコさんとお話を、
してもよろしいでしょうか…。
と言うと、イライラしながら、
手短にお願いします!と言われた…。
わかってますよ…なんで怒るかな…。
こんな家庭でユウコは育ったんだな…。
私は、ユウコに、
ユウコさん、今日の約束。
会えてすごく嬉しかったです。
また、次に会えたら、一緒に行きましょう。
ユウコさんの作るパンは、最高でしたよ。
残念ですが、ユウコさん、さよならです。
色々ありがとうございました。
ほら、親御さんが待ってますよ。
楽しんで来てくださいね。
そう言うと、ユウコは、
少し固まり、私の言葉を理解しようと、
している様だった。
そして、何も言わずに、
親御さんの所に走って行った。
ユウコが走っていくうちに、
私は急いで、全速力で逃げた。
私の姿を見せてはいけないと、
そう思ったからである。
遠目で、ユウコを見ると、
大人しく親御さんに抱えられる様に、
イベント会場に入っていった。
これで、いいんだよな。
私はバカだ。
変な期待させてしまった。
結果、ユウコを傷付けてしまった…。
しばらく、私はその場で、うずくまる。
涙が出てきたからである。
ユウコの事や、親御さんの事。
パン屋さんの事等を、考えていると、
なぜか涙が出てきたのだ。
やれやれ、オレってちっぽけな人間だな。
でも、楽しかったな…。
みんなが、いい奴で個性的で、
みんないい味出していて、楽しかった。
のど自慢が好きなヤツがいて、
誰かが歌うと、
それは、何年の何月何日の誰が、
歌っていたと、必ず推理して答える。
多重人格のダウン症の人がいたな。
毎日、違う人格になってて、
いつも、私を追い出そうとして面白かった。
あーみんなが恋しいぞ!
オレ、もっと一緒に働きたかったな…。
でも…しゃーない。そいつらは利用者。
私は職員と言う立場になってしまったら、
色々、ややこしいみたいだもんな。
みんな、楽しく美味しいパン作ってくれよ!
一度だけ、偶然に、
売りに行っている所に、遭遇した。
クビになって、ずいぶんと経っていたのに。
オレの事、みんな覚えてやんの。
嬉しかったな…。
でも、同じ過ちは起こしたくない。
遠くで、バイバイして私は去った。
その後、また泣いてしまった…。
いやー、この泣き虫はどうすればいいんだ。
でも、今回は嬉し涙だし…いいっか。