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天丼
これは、我が家の天丼のお話である。
天丼と言えば、何を想像しますか?
海老天、ししとう、茄子、かぼちゃ等が、
どんぶりに乗っかって、甘めのタレが、
その上と、ご飯の上にと、かかっている。
きのこの天ぷらやさつまいもの天ぷらも、
いいですよね。
ですが…。
我が家の天丼は、一味ちがうのである。
我が家というか、私と母の二人だけである。
そして、母は料理が壊滅的に出来ない。
なので、私は小学校入ってから、
料理をひたすら近所中から聞きまくって、
給食のおばちゃんにまで、お願いして、
毎日、料理を作っていたのだ。
そこで、母である、かあちゃんが、
わがままを言うのだ。
天丼が食べたい!
さすが、我がママである…すみません。
しかし…問題なのは我が家は貧乏である。
天丼を食べに行くお金すら、ないのである。
小学生の私は、悩みましたよ…。
近所中のおばさん達にも、
給食のおばちゃん達にも、
聞いてはみたものの、手間とお金がかかる。
私は、料理以外にも、家事一般をしていた。
しかも、私は不器用である。
天丼なんて、難易度の高い食べ物を、
パッ!と作る事なんて、できやしない。
学校でも、家事を、しながらも、ずっと、
頭の中は、天丼の事だらけである。
そして、はっ!とひらめいた!
私は、学校帰りに、蕎麦屋さんに行った。
そして、店主にお願いをする。
ねー!おじさん!天かす、ちょうだい!
とりあえず、これから帰って掃除とか、
してくるからさ、その間に天かすを、
捨てないで、僕にちょうだい!
店主は、多分何かを察してくれたのだろう。
そうか!わかったよ!任せておけ!
と言ってくれた。
一通り家事をして、蕎麦屋に天かすを、
取りに行った、すると、袋にいっぱいの、
天かすをくれたのだ。
多分だが、店主はわざわざ天かすを、
作ってくれたのではないだろうか…。
わー!こんなに!おじさん、ありがとう!
お金払うよ!いくらぐらいかな…?
店主は、
元は捨てるもんだ、金はいらねーよ。
となんとタダで沢山の天かすをくれたのだ。
嬉しくて、店主に、何度もお礼を言った。
そして、走って家に帰って、
あの甘めのタレを作っておいた。
かあちゃん仕事から、帰ってきて、
その甘めのタレを煮立たせて、
とろみが出たくらいに、蕎麦屋でもらった、
天かすを入れて、タレに絡ませた。
そして、大きめの茶碗にご飯を盛り、
その上に先程の天かすを盛り付ける。
これが、我が家の天丼である。
正しくは、天かす丼なのだが…。
かあちゃんは、その物体を、見て、
これ…なんだい?なんて食べ物なんだ?
と不思議そうに眺めていた。
私は、
かあちゃんごめんね…。
本当は、天丼食べさせたかった…。
けど、僕には難しくて…ごめん。
これは、天かすで作った天丼だよ。
騙されたと思って、食べてみてよ!
と、かあちゃんと一緒に天丼を食べた。
すると…すごく美味しいのだ。
あの、蕎麦屋の天かす、だからなのか、
それとも、タレが上手いこといったのか。
かあちゃんと二人で驚きながら、
天丼…天かす丼をもりもり食べた。
次の日、学校帰り、あの蕎麦屋に行った。
店主に、
どうしても感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
おじさん!昨日はありがとう!
あの天かすで、天丼みたくして食べたんだ!
そしたら、すごく美味しかった!
おじさんの作る天かす、すごく美味しいね!
僕、すごく感動しちゃた!
今度は、かあちゃん連れて食べに来るね!
店主は、ニコッと笑い。
おーそうか!よかった!お前やるじゃないか!
いつでも天かす、欲しかったら言ってくれ!
と、優しく返事をしてくれた。
それから、蕎麦屋の店主は、
学校帰り私を、見つけると、
後で来い!と言って、
たくさんの天かすをくれる様になった。
その度に、
我が家では、その天かす丼が定番として、
食卓に登場し、もう天丼と言えば、これ。
そのうち、私も大人になると、
天丼を食べる機会も出てくる。
だが、あの我が家の天丼に勝る天丼はない。
確かに、具材の旨みや、サクサクとした、
食感は、食欲を増してくれる。
だが、やはり根っからの貧乏性の私。
贅沢な話だが、やはり1番は天かす丼なのだ。
今はかあちゃんも亡くなって、
私は病と戦って、入院中である。
食欲がなく、お粥をなん口か食べて、
吐き気と戦いながら、飲み込む毎日だ。
だが、突然に、
あの我が家の天丼を思い出したのだ。
すると、
私のお腹が鳴って、口には唾液が溜まった。
驚いた…。
恥ずかしい話だが、
ここ数十年とお腹が鳴るなんて、なかった。
それに、何かを食べたいなんて思わなかった。
何かを食べなければ、体がもたないからと、
強制的に、なにかしらを食べていたのだ。
もしかして…初めてかもしれない。
何かを食べたいと強く願い、思う事が。
あー。食べたい。
あの、天かす丼が…我が家の天丼が。
市販の天かすじゃダメなんだよな…。
あの蕎麦屋は、もう店主が亡くなって、
店をたたんでしまっている。
新しい蕎麦屋見つけないとな…。
と、その前にご飯食べれる様にならないとな。
かあちゃんの美味しそうに食べてる姿。
また、見たいな…。
あの頃がすごく懐かしいよ…。