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【 落語の雑則 42】 トレースは歪む

レントゲン写真に
半透明の紙を載せ
灯りに透かして
輪郭を鉛筆でなぞる

私はこれが仕事なんだから
そりゃ自信がある

そこで
これを使って
たいへんお世話になっている方へ
かっこいい手紙を書こうと企んだ

透けて見えるような薄い便箋を用意した
ライトボックスの上には
パソコンでプリントした見事な書体の手紙

なぞるだけでキレイな手紙の出来上がり
と思ったのは正に浅知恵

ライトボックスの灯りを消すと
そこに書かれた字は
紛れもなく
まるまっちい自分のヘタ字

軽い目眩ってのは
これを言うのかと知った

話もこれと同じかもしれない

実感が使わってこない
どこか浮き上がったような
文字づらを追うかのような
記憶をさぐっているような

そう聞こえてしまうのは
直接便箋に書かずに
誰かの見事な話を
トレースしているからではないか

まるまっちくて
笑っているような
「お」だか「す」だか「め」だか
ちょっと見
いや
じっくり見ても
分からないような
そんな私の字でも

直接
丁寧に書けばかならずや
なにほどかの
実感が伝わるだろう

練習はトレースして描いても
本番は自分の言葉で描ききる

そんな落語を追究したい


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しんりょう
落語を考える事は限りなく深い森の姿を探求する旅のようなものです。森の中にいる私には、森の外から見ての意見で、見えないものが見えてくると思います。そして、一人より二人、二人より三人と、誰かと一緒に考えて行きたいです。スキ、コメント、サポート、みんな大歓迎です。よろしくお願いします。