海にうかぶ小舟[ショートショート]
「班追放だ、班追放」
数日前の終礼で不用意に発した私の言葉が、そのまま刃となって自分に返ってきた。
クッと胸からひろがったセメントのよう緊張が、私の全身を固まらせていく。
え……班追放て。私……が?
いつもならできるごまかしもきかない。その余裕すらない。胸で抑えきれない何かが爆発して、喉にせり上がってくる。緊急事態だ……。
もう涙が溢れてきてしまってるのがわかった。
こぼれなきゃ、みんな、わからないに違いない。そうきっと、わからない。
私はトイレにかけこんで、制服の赤いタイを引きちぎり、大泣きに泣いた。
みんなが気軽にやっているSNSの投稿が、私にはできなかった。
他愛のないつぶやきも、昨日行ったカフェのスィーツの書き込みも、可愛くて撮りためたハムスターの動画でさえも。
人とのやりとりを生む、SNSが怖かった。
1対1の会話なら、たとえうまくいかずとも、その人との関係だけでおわる。
あきらめて次へいけばいい。
なのに、SNSだとそのやりとりをみんながみている。
「1対1」の密室のはずのやりとりが、みんなにさらされる。
私のコミュ障が、私の人への怖れが、私を知るすべての人へさらされてしまうのが、怖かった。
変な人 変な人 かわった ひ と。
集中砲火を浴びるかもしれない。
今日の「班、追放」みたいに。
自分が軽率に発した言葉の威力に打ちのめされた。
もともと、属してなんかいないのに。
属してないから、仲間じゃないってわかっているから、
その仲間に入りたくて、班っていうくくりに入っていたくて、
一生懸命、がんばってきたのに。
悲しくて、せつなくて、くやしくて、ごちゃごちゃに混乱して涙がとまらない。
こんなに泣いてしまう自分に、自分が一番おどろいた。
しっかりとはりつけていたはずの仮面が、突然むしりとられた。
そこには、もう、隠しようもない、無防備きわまりない素顔の私がいた。
また、仲間はずれ。
学校でも、バイトでも、部活でも、どこに行っても、なにをやっても。
私はいっっつもカヤの外のなかまはずれ。
私のはいるカヤは、いったい、どこにあるのだろう。
ここへおいでといってくれる人は、いつになったら現れるのだろう。
泣きすぎてぼんやりする頭に、こもった微熱を感じた。
もしかしたら、もしかしたら、SNSだと見つかるのかも。
同じよーーーに、「変わってる」っていわれる人が、
「へんなひと」っていわれる人が、
「おかしいんじゃない」っていわれる人が、
「ふつうそんなこと、しないよ」っていわれてしまう ひとが。
引きちぎったタイを、トイレの中へすてた。
ぷかりと浮いた赤い紐を、水洗レバーを力まかせにひねり、見送った。
ふつうなんて、くそくらえだ。
もう、ふつうとか、まじ、くそくらえだ。
私はSNSに挑戦することにした。
もういい。
世界中のひとが、私を笑おうと知ったこっちゃない。
そんな人は、私の投稿だってスルーしてどっかにいってしまうんだから。
この地球にすむ、星の数ほどのうごめく人々の中で、
「おかしいといわれ続ける」だれかと出会えるような気がして、
私は、私の心をつづり、ネットの海へと小舟を送りだす。
小舟が、その風変わりな誰かをのせて、いつか私のところへ
戻ってきてくれることを、願いながら。
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