恋
「ねえ、わたしの話きいてた?」
「髪切ったんだけど…どうかな?」
「あ、やっぱり聞いてない…もう知らない(ぷいっ)!」
あわてて彼女のあとを追いかける。
☆
彼女がひょうたんに見えることがときどきある。しばらくすると元に戻るし、彼女に言っても悪口にしか聞こえないだろうから、言わないままでいる。
ひょうたんに見えているときも、彼女は彼女だ。そう思えることに、すこしホッとする。これってすごいことかも、とも思う。
☆
「…あ、きれいな空。」
彼女がそう言うと、彼女の表面がスッとうすあおく色づいた気がした。さっき落ち葉をこどもみたいに踏みつけていたときも、ちるちると秋の色が濃くなってみえた。
見つめていると、ことばが出てこなくなる。そうでなくても僕はぼんやりしがちなので、いつもとそう変わらないかもしれないけれど。
なにかに集中しているときの彼女は、特別にきれいだと思う。いつだって。
ねぇ、あのさ。
「ん、なあに?」
…やっぱり、ひょうたんだなあ。
どうしてひょうたんなんだろう。じつは好きなのかな、ひょうたんが。そんな風に思ってると、
「何ニヤニヤしてんのー?」
と小突かれた。なんでもないよ、とこたえて、また歩きはじめる。
「君ってときどきよく分かんないよね。」
そう彼女が笑って、僕も笑った。
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