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母の肉そぼろ
母の作る肉そぼろがずっと好きだった。
思い立ってメッセージを送り作り方を聞いた。簡単よ?と前置きして母はすぐに答えてくれた。
食べたくなったらすぐに作る、ということで洗い物をすべて片付けた台所に向かう。
ふとまた思い立って明日は敬老の日、うちの母も義理の母もそれから私の祖母も集まるのだということに思い至って、
今から作るこのそぼろをおもたせにしよう、私の初めてのおもたせにしよう、そう決めた。
めんつゆを水で伸ばしフライパンでくつくつと煮立たせる。そこにたっぷりの砂糖入れる。……はずだったのに入れ忘れて、あいびき肉の上にパラパラと砂糖をふりかけた。肉の赤が濃い茶色にどんどん変わっていくのは、しょっぱくて甘くてご飯の進む味がぎゅっとしみこんでいるようで、たまらない。
生姜も本当はすりおろして汁を入れるんだけどおろし金が見つからず(探すのが下手で困る)結局みじん切りにした生姜をパラパラと入れた。
火を止めて味を見てみると驚いた。本当に母の作ってくれていたあの肉そぼろの味だったのだ。
違うのはそれが湯気を立てていて、できたてのホカホカだったということだ。それから今は夕食の後で、一緒に食べる白いご飯はここにはないということだ。
母と義理の母と祖母の分を、ちいさなタッパーに分けていく。すると私が食べられるのはほんの少しになってしまうのがだんだんと分かってきて、しゃもじの手がぶれる。ちょっと入れたのを戻して少なくしたくなる。
でも、戻したりはもちろんしなかった。これをまたそれぞれの今住んでいる家に母と義理の母と祖母がみんな持ち帰って温めてとご飯と一緒に食べるのだ。それぞれの別々の食卓にプラスいっぴん加えて、それからこれは私が持たせたものだというお土産話もそこには加えられるのだと思う。
そのことを想像しながら私の分のちょっと残った肉そぼろを、私も明日、あたたかいご飯といっしょに食べよう、と思った。