人間て面白い形をしてるね
「人間て面白い形をしてるね」
これは、高校の時に同級生が言った言葉だ。
この世界には、無機的な物と有機的な物がある。私たちの住んでいる居住空間は、無機的な人工物で作られていて、幾何学的な形をしている。幾何学的な家を出て、幾何学的な建物を見ながら、直線的な道を歩き、幾何学的な電車やバスに乗り、幾何学的な駅で降りて、直線的な道を歩き、幾何学的な校舎に入り、幾何学的な教室で授業を受けた。幾何学的な世界の中で、人間は、これらとは違う形をしていると感じたのだろう。
散歩をしながら、こんな昔のことを思い出している。樹木が枝を広げて空に伸びている。樹木の向こうには幾何学的なビルが見える。有機化合物と無機物の違いをはっきり感ずることができる。
人間の創造物は、幾何学的な構造をしていて、物理学者は、そこにはどういう方程式が使われているかを理解している。建築家は、木材を使ったり、色彩を工夫して、人間に心良さを感じさせる努力をしている。しかし、その基本的な構造は、先史時代の竪穴住居と左程変わってはいないように私には思われる。
一方、樹木は、天に向い枝を広げ、地中では根を張り巡らしていて、その仕組みは、無機的な人工物とは違う不思議な力を思わせる。そして、人間は、人工物と自然の樹木のどちらに居心地の良さを感じるかと言えば、後者である。人工物に対して、人間は面白い形をしているという発見は、人間の不思議な構造への驚きがあったと思う。皮肉な言い方をすると、人間は自然の創造物に対して、面白くない物を作り続けてきたということである。
文明が進歩して、居心地の良い有機的な空間が作られるのだろうか。肌触りがよくて、柔軟で、しかもしっかりとした構造の建築物が作られる遠い未来にまた生まれてみたい。