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ベンチのある道
久しぶりに家に近い緑道を歩いた。この先に子どもたちが通った保育園がある。ある日は、子どもを自転車に乗せ、ある日は抱っこをして歩いた。成長するにつれて子どもの手をひいて歩くようになった。この緑道は、十年の間、3人の子が保育園に通った道である。
緑道の入り口には、花壇の横にベンチがあった。ある朝、そのベンチに座って、途中で食べようかとポケットに忍ばせていた一つの蜜柑を子ども等と分け合って食べたことがあった。ベンチを見ると蜜柑を食べたことを思い出す。
毎朝、ひとりの老人がベンチに座っていた。いつも座って通行人を眺めているようなので、そのうち老人に会釈をして過ぎ去るようになった。一年程立った頃だろうか。その老人に頭を下げたら、ずいぶん大きくなったねと初めて声をかけられた。その頃は、抱っこされていた娘がゆっくりだが歩いて保育園に通うようになっていた。娘の成長をずっと見続けていたのだろう。
今日は、保育園を過ぎて、緑道の途切れるところまで歩いた。保育園の物置の壁には、王様や勇者や白鳥の絵が描かれている。それは、保育園の生活発表会で行われた劇の登場人物を描いたものだ。その時、子どもは王様役をやった。この絵を見るとそのことを思い出す。ペンキで描かれた絵は、心持ち色が薄くなった気がする。
緑道の所々に置かれているベンチは、色あせて、そのうちのいくつかは木が朽ちていて、注意のテープが張られていた。朽ち果てたベンチに数十年の歳月を感じる。子どもたちは、あの頃のわたしのように子どもを保育園に送る歳になった。