知らない道は遠く、知っている道は近い
初めての道は、距離やかかる時間などの情報がないので時間が長く感じられ、遠い道に感じられる。その反対に情報があると時間は短く感じ、道は近く感じる。そんな体験を何度もしている。
「ちょっと夜桜を見に行こう」と誘われて、駅の北方にある公園に友人と歩いた。薄暗闇が足元をおぼつかなくさせているせいか、えらく遠い。やっと着いた公園の夜桜は、ライトに照らされて昼間とは違った美しさがある。来てよかったと思う。
帰路は、夜桜の余韻が残り、ウキウキとした気分で歩を進めた。駅までの帰り道は、行きにはあんなに遠いと思われたのに帰りはすごく近い。一度歩いた道だからだろう。確かに知っている道は近く感じ、知らない道は心細いせいか遠く感じる。知っている道は、脳が今どのあたりにいるかの計算ができ、心にゆとりが生じるからだろう。
人に道を尋ねると、「そこを曲がって真っすぐ行け」と教えてくれた後に「すぐですよ」と言われても、結構長かったりすることが多い。教える側からすれば近いのだろうが、初めての人には遠いものだ。
心理的な時間が異なるのは、道だけでない。病院の待ち時間も長く感じる。待合室でのこと。「随分と長く待たせるな」という男性の声がしたら、隣に座っている婦人が「それだけひとりひとり丁寧に診ているのよ」と言う。それを聞いたら、何だかほっとするような気持ちになった。
病院の受付番号はランダムに発行されていて、数字が順番を表していない。その人の病状により順番が変わりうることを考えてトラブルを防止するためだろう。看護師から「あと何番目ですよ」と教えてくれると待ち遠しい気持ちが薄らぎ、少しは時間が短くなる気がする。
心のもやもや、不安感が心理的時間の長さに関係するのは心理学の課題だろう。楽しいことはすぐに過ぎて、早く終わってほしいと思うことは、なかなか時間が立たない。
心理的な時間と物理的な時間は違う。過ぎ去った過去は、昨日のことのように感じる。しかし、未来は、未知なるがゆえに遠く感じる。過去は短く、未来は長い。