銀行で出会った祖母の実家の姓「藤城」
飯田橋の銀行でのこと。カウンターに置かれた「藤城」という名票に目が止まったのは、私の祖母の実家が藤城(ふじしろ)といったからである。
祖母は、西船橋に近い二俣の半農半漁の家に嫁いだが、夫が大正の感冒で亡くなると舅姑に仕えることを拒否して、幼さな子を連れて市川国分の実家に帰って来た。それから女手一つで六人の子どもを育て上げた。そんな気丈でたくましい人だった。
手続きが済んでから「お名前は藤城とお読みするのですか」とその若い女性に尋ねた。「私の祖母の実家は藤城と言いました。余り見かけない名前なので、つい」と言うと、事務的な顔が生き生きとした笑顔に変わった。
「代々木の代の藤代は多いですが、藤城は珍しいですね」と言う相手は、川越の出とのこと。さらに「どこかで繋がっているかも知れないですね」と、絶えない笑顔が清々しい。こんな私的なことにつきあってくれて、ありがたい気持ちが湧いた。そして、この人は、自分の苗字が好きなのだなと思った。