上野の山を歩いて
上野の東京都美術館で開催されている展覧会の案内を頂いたので、久しぶりに上野公園を訪れた。
蓮玉庵
上野広小路駅で降りて、行くことにした。湯島の仲町通りに老舗の蕎麦屋の蓮玉庵があることを思い出し、寄ってみた。丁度店主がのれんを持って現れ、入口に吊るした。
百年以上にわたり保たれてきた老舗の味を味わおうと天せいろを注文する。先ずは蕎麦汁と刻みネギが運ばれてきた。ネギの香りがする。箸袋に蓮玉庵とタテに書かれている。天ぷらを揚げるジュージューという音がする。やがて、せいろと揚げたての天ぷらが来た。蕎麦は固め、つゆは濃い口。揚げたての海老天はぷりぷりとして美味しい。尻尾も食べた。海老天の尻尾はカリカリして海老の旨味が感じられる。
東都のれん会の店だが、百年以上にわたり、蕎麦を打ち続けてきたことに敬意を払いたい。のれんに引かれて通い続ける常連客が多いようだ。その日も店の人と話をしていた。
チェロ演奏
広小路からのゆるい坂を登った。桜並木が途切れたら、チェロの音色がする。その音にしばらく立ち止まる。演奏者はヒゲをはやした外国人だが、弾いている曲は何か分からない。しばらくしたら、観光客らしき外国人が立ち止まった。チェロケースが開かれて、"Thankyou"とあり、お札やコインが入っている。通りすがりにコインをケースに落として、立ち去る人もいた。
行こうと思っても、魔法にかかったように足が動かなかった。終わったので、拍手をした。拍手してるのは自分だけ、演奏者が私を見てありがとうと言った。私はチェロケースに1枚のコインを入れた。
少し歩いたら、マイウェイが聴こえてきた。良い音色だなと思い、もう少し聴いていたいと思いながら、東京都美術館に向かった。
美術展
知人の展覧会は、美術館の1階で開催されていた。中に入ると大きな絵ばかりが並んでいる。100号位あるのだろう。絵本にしたくなるような絵がある。絵の具が盛り上がった材質感のある絵もある。伝統的な西洋絵画を思わせるマチエールが綺麗な絵がある。鉄格子から見た雨の日の景色を図案化したもの等々。
何枚かをカメラで撮って見たら、絵の画質感がなくなり、皆光沢のあるものになっていた。印刷物で見る絵画は、くすんだ絵が綺麗になることもあれば、力強いタッチが消えてしまうこともある。やはり印刷は本物とは違う。
JR上野駅公園口
JR上野駅公園口に行った。上野公園口を出入りする人々で賑わっていた駅の光景はなくなり、駅はレストランのある建物で覆われていた。駅前を走っていた道路は、歩道で左右に分断され、それぞれにロータリーができていた。駅を出た人は横断歩道を渡らずに上野公園に行けるようになっていた。2020年春に改修されたが、毎年、上野公園には行ってるのに、東京メトロで行っていたため、気づかなかった。
さて、今日の上野では何に一番感銘を受けたかなと振り返る。老舗の蓮玉庵か、チェロの音色か、美術館の絵か、改装された上野駅か。それを確かめる方法は、その場所に再度自分を置いてみたいかどうかだ。自分の姿をそれぞれの場所に置いてイメージする。すると感銘を受けたのは、チェロの音色だった。また、あのセロ弾きのチェロを聴いてみたい。