リマでバイオリンを買ってみた
アンデスに響くインディオのケーナの音を出せたら良いなと思って、せっかくペルーのリマに来たのだから、ケーナを買おうと思い、妻と連れ立って、リマの楽器店に行った。
楽器店に飾ってあるケーナを買った。吹いたことがないので、音の出し方を教わった。店員さんが吹いてくれる。下唇を吹き口に軽く付けてみたが、なかなか音が出ない。仕草で教えてくれるうちに、音が鳴ったら、ニコッと笑ってくれた。ケーナをインカ模様の綺麗な袋に入れてくれた。
これでケーナを買ったし、目的は達せたのだが、ケーナを見たときに、近くにバイオリンが飾ってあり、安価(S/250)だったので、ペルーの記念にと欲しくなった。店主にこれをと言ったら、店主がそのバイオリンを弾き出した。そして、ちょっと弾くと私に渡してきた。どうもバイオリンが弾ける客に思われたらしい。見様見真似で弾いてみたが、簡単に弾けるものではない。店主がまた曲をワンフレーズ弾いて渡してくる。真似して弾いたつもりが音が外れている。店主がしかめっ面をする。店主が弾いて、私に渡し、弾くと店主の顔がしかめっ面になる。妻はそばで見ている。こんなことが3、4回続いたが、急に『霧の中の少女』のメロディが浮かんで来て、弾くとワンフレーズそれらしく聞こえたらしく、店主の顔がニコッとした。そこで、このバイオリンをくださいと言って、買って帰った。
それから、バイオリンを習い始めた。リマで弾いたときに簡単に音が出たのが嘘だったように難しいものだった。弓が弦に直角になるように弾け、弓を持つ手は猫の手のようにと指導された。弓への圧力は必要、全弓を使えと言われた。正しい音は一点しかない、指の位置が1mmズレただけで音はくるうと何度も言われた。合うと弦と弦が共鳴し美しい音がした。
習い始めたときに、新しいバイオリンを買った。あのリマのバイオリンは、共鳴体が貧弱で華麗には聞こえるのだが、音量が小さくて物足りない。すぐに黒い指板が剥げた。リマで聴いたときは良い音がしていたのは、店主の力量だったのか。一万円のバイオリンでもプロのバイオリニストは、上手に弾いている。楽器を選ばなくてもよいような技量になるとそれができるのだろう。
習いはじめたときに、先生から良い楽器ならば、楽器が教えてくれると言われた。ひとつひとつの音を味わいながら弾きなさいとも言われた。素人には、開放弦の音だけ聞いていても楽しくて、次の音を出したくなるような楽器が良いようだ。
リマのバイオリンは、ほとんど使われずに放置されている。だが継子扱いは可哀想だ。せっかく生まれてきたのだからと思い、時々、リマを思い出しては使っている。次第に音が大きくなってきた。ケーナは、完全に引き出しにしまわれている。
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