見出し画像

草むらに靴、甲板に靴

ある小春日和の日、近くの公園を歩いていたら、数歩先の道端に靴が脱ぎ捨ててあるのに気づいた。近づくと靴のある先の方の草むらに、それまで灌木の茂みに隠れて見えなかった洋服が無造作に置いてあった。何だろうと思って見たら服ではなく人が気持ちよさそうに寝ていた。人騒がせなことである。歩きながら、数年前の船旅の時に甲板に洗った靴を置いて乾かしたことを思い出した。

たしか船旅もイースター島を過ぎて終盤に差しかかった2014年2月の晴れた日だったと思う。長い船旅で潮の匂いがついた靴を洗って甲板のフェンス際に干して、わたしは海辺にあるようなチェアーにゆったりと座っていた。

そこへ船員が通りかかり、靴を見て驚いたそぶりをみせた。私はあわてて身体を起こして、ウォッシングと言った。船員は、ウォッシング!と答えて、笑って通り過ぎた。

確かに靴を甲板に置くなんて人騒がせなことだなと思った。それまで思っても見なかった身投げシーンを想像していやな気持になった。靴が早く乾いてくれないかと願った。だが熱帯の強い日差しが降り注いでいるが、なおも靴は濡れている。わたしは仕方なくチェアーに横たわり青い空を眺めていた。それ以外に何もすることのない太平洋である。今から思えばそんな呑気な数年前の船上の出来事を草むらに寝ている人を見て思い出したのである。

2022.12.7

その時にノートに描いたスケッチ


 


いいなと思ったら応援しよう!