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一枚の絵を楽しむ―六郷の渡し

一枚の絵からどんな楽しみが見つかるだろうか。次第に動けなくなり、旅行もままならなくなった時のために限られた絵から世界を見て楽しめたらと思う。

娘のつれあいのA君から、東海道五十三次の大きなカレンダーをもらった。表紙は「川崎、六郷の渡し舟」だった。見ていて、いろいろな「はてな?」が浮かんだ。

国立国会図書館所蔵

舟は出たところか、着くところか?

六郷川(多摩川下流)と対岸の川崎の景色が描かれている。渡し舟は川崎宿に着くところのようだ。茅葺きの民家が建ち並んでいる。舟には6人の乗客が乗り、対岸には、駕籠に座った人と駕籠かき2人、荷馬と馬子、武士2人がいる。

東海道には、六郷川、安倍川、大井川等の川があり、増水時には川止めされた。川越人足の腰までを平水といい、水かさがますに従い、下水(乳下)、脇水、上水(乳上)、肩までくると川止めになった。水位が下がると、川役人が瀬ふみをして、川止めを解いた。大井川には、渡し舟はなく、川越人足の肩車や蓮台に頼った。いっぽう六郷川には、渡し舟が使われた。(『三田村鳶魚 江戸生活辞典』)

舟で立っている!

男女を問わず、たばこを吸う姿が描かれている。キセルを持った町女が立って、座った婦人と話をしている。立ったままたばこを吹かしている男もいる。舟が不安定にならないのか案じてしまう。このシリーズの「見附 天竜川舟」では、船頭以外は乗客はみな座っている。

男女が煙草をふかしている!

舟には、キセルで煙草を吸う男と女がいる。煙草は女性にも普及していたらしい。『三田村鳶魚 江戸生活辞典』を見ると『世間娘気質』(享保元年)には、たばこを咽まない女はまれとあり、吸うほうが一般的だったようだ。

駕籠が川を渡る!

渡し船がない川では、駕籠は蓮台に乗せて4人の川越人足がかついで渡るが、六郷川では舟に駕籠を乗せたのだろうか。残念ながら、広重画「東海道五十三次」には、駕籠を乗せた絵が見当たらない。駕籠にも道中駕籠ではなくて、自宅から乗ってきた自家駕籠もあったそうだ。
荷馬と馬子は、そのまま川を渡ったのか、舟を待っているように見えるので、馬も舟に乗るのだろうか?

奥の方で腰をかがめている人は何をしてるのか?

奥の方に川合所があり、川役人がいた。腰をかがめている旅人は、渡し船賃を払っているところだろう。

一枚の絵からも、じっと見ているといろいろな発見や疑問がわいてくる。何だろうや何故だろうは、人間の活力のもとである。答えが分からなくてもそう思うことが大切だと思いたい。


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