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車検で泣いてしまった話

今日は、車の半年点検の日だったので、重い体の私は無理矢理準備をしようとしていた。

1週間以上雨が降っていた私の地域では、今日のような晴れは珍しく、私の心も不安定ではあるが他の日に比べて幾分かマシだった。

しかし、その楽な気持ちも午前中をピークに落ちていき、午後には出かける準備に相当な時間を使うようになってしまった。

やっと準備が終わって時計を見る、遅刻だ。私はふわふわとした離人感を持ちながら、集中力の削がれた運転で車検に向かった。

目的地に着く3分前、車のナビがプルルルル…と音を立てる。電話である。スマホをBluetoothに接続しているため、ナビから電話がかかってくるのだ。でも…そもそも車のナビから電話って、どうやってとればいいんだろう?スピーカーにはなるのかな。そう思っているうちに助手席の父が「ここを押せばいいんじゃないの?」と言って受話器ボタンを押してしまった。

父が私の代わりに電話に出て担当者と話す。「ごめんなさいね、遅れちゃって」と伝えると「えーっと…まあ、なんとかしておきます!」と元気な応答が。

私のせいだと反射的に思った。私のせいでこの担当者は予定が狂って焦ってしまうこととなった。私が早く用意ができれば、こんなことにはならなかったのに。

この時点でかなり行きたくない気持ちが強くなってしまったが、父から「大丈夫だよ、もうすぐ着くし」と催されて入店した。

担当者はいつも笑顔で和やかな方だが、そこに笑顔はなかった。額に汗を湿らせ、焦り口調で「いらっしゃいませ、特に不具合はないですかね!」と言われてしまった。もし私だけだったらその焦りに釣られて「はい」と答えてしまうのだろう。しかし、いつもの調子で父親は「いや、それがですね。少しありまして」と、私の気持ちを代弁した。

テーブルに通されたので、私の口から担当者に不具合を話す。「エンジンが一度ではかからないことがあって」「ガラスに傷のようなものがついてしまっていて」一言一言言うたびに、彼の顔色を伺ってしまう。きっと、この人は必死なのだ。客が言ったことを急いでメモして、設備の方に話して。

私は自然と自分の体に爪を立てて、ギリギリとしながら耐えた。喋りながら、テーブルの下で私の右手が刃物になり、左手の甲に突き立てられていた。

「しばらくお待ちくださいね」と言われ、担当者がその場を後にした時には完全に肩に力が入り、ギュッとリュックを抱きしめ、その場のストレスに耐えていたが、次第に耐えられなくなりポロポロと涙が溢れ出た。ポロポロ落ちた涙はマスクの下へ流れ込んで行くため側から見れば、緊張しているただの客人であった。マスクは便利だ。

私はトイレに逃げ込み、息を上げて泣いた。私のせいで彼らを焦らせてしまった、迷惑をかけてしまった。


帰り際、すっかり綺麗になった愛車の前で、さっきの額の汗はすっかり消えてなくなり、にこやかになった担当者が、車のハンドルカバーを褒めてくれたため嬉しくなった。

しかし、最後に「今度は時間厳守でお願いします」と伝えられたため、心が曇り深々と私はお辞儀をし、心の中でも謝った。

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深海 もみ
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