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【短編小説】愛だった【閲覧注意】

これ程幸せを感じることはない。俺の手が彼女の手と握り合っている、腕の断面が綺麗だ、これが最終的な愛の形だと俺は思いゾクッと脈が上がるのを感じた。

ことの始まりは、新しく出来たファミレスだった。軋むことのないトイレのドア、駐車場に引かれた白い線でさえ真っ直ぐで、働く俺の門出を応援してくれるようだった。

接客業が好きな俺は、このファミレスで面接を受けようと思った。新しく出来たレストランなので人手不足で、こんな俺でも受かるだろうと思い、何となく受けたことが彼女と出会うきっかけとなった。

美咲という女性だった。顔はそこまで美人ではないし俺のタイプではない。だが、彼女は綺麗だ。

レストランに入ってきた虫を殺さずに外に逃がすところ。

自分の仕事に集中してしまい、周りが見えなくなって怒られてしまうところ。

仕事が上がれそうになったら時計を見る頻度がどんどん増えていくところ。

消毒液をつけずに来店してきたお客様を「アルコールで肌が荒れちゃうタイプなのかもしれないね」と言うところ。

美咲さんは、他の誰よりもずっと綺麗だった。そして、綺麗な彼女の隣には、俺ではない綺麗な男がいるのだった。

正直、家に連れ込むことがこんなに簡単なことだとは思わなかった。美咲さんは、俺を疑うことを知らない天使のような人だったのだ。仕事内容で確認をしたいと言っただけで、美咲さんは付いてきてくれた。

その天使の羽を剥ぎ取ることが、こんなに興奮するものだとは!想像以上の快楽だった!

俺は、美咲さんの手の中で逃がされた虫になりたかった。綺麗な美咲さんの手に触れてみたかったんだ。美咲さんの体内に流れるものはどれだけキラキラしているのだろうと興味があったのだ、ああ、美咲さん。

ひとしきり美咲さんの手を握り続け、手の断面図をジリジリと眺めていた僕は、もっと彼女に色々なことをしたくなり、彼女の服を剥いで、肌に少しずつナイフを滑らせていった。

美咲さんの肌は透明でいい香りがして輝いていた。やはり、美咲さんは天使だったのだ。他の男性に汚された穢れを落とすつもりで、僕は浴室に美咲さんを運び、優しい手つきで彼女の体を洗った。まるで赤ん坊に触れるかのように、優しく、優しく。

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深海 もみ
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