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意外性を持たないと、愛されない


大人しく目立たない生徒だった私が、高校の頃文化祭で劇を演じた。演劇のチャンスはそうゴロゴロ落ちてはいないものだ。そんな中、貴重なチャンスを見逃すわけにはいかなかったのだ。すかさずそのタイミングで手を上げた。希望者が少なかったため、大人しく目立たない私が、その1人に選ばれた。

コツコツと放課後を使って練習していた私は、誰よりも真面目に、熱心にやっていたのだろう。本番当日には、大盛況を貰ったのだった。劇の出来栄えではなく私の演技力に。人は、意外性を感じないと、好感を持たないのだろう。

私のような地味な生徒が目立つ場所で名演技をしたので、誰しも意外性に目を見開き、拍手をした。劇が終わった後に、話したこともない生徒が私に近づき話しかけてきたりもした。

私はコミックが好きだ。中学時代に自分の中で流行った「黒執事」という漫画をつい最近、レンタルして読んだのだが、その意外性に驚いた。黒執事とは冷酷非道な漫画だ。その場の助かりたい気持ちにすがり、悪魔と契約した少年シエルと、その少年の魂の為ならどんな醜い手段も躊躇しない悪魔の物語である。

その2人に敵だと判断されたが最後、何も幸せは生まれない。ただもがいて死ぬだけだ。…そんなストーリーのはずなのに。

なんと、漫画「黒執事」は、巻数が進むごとにハートフルなシーンが増えてきたのだ。シエルに気に入られた人は、本当に彼に大切にされる。愛を忘れた冷たい目をしながらも、手を差し伸べるその少年に、私は何故か心の温かみを感じてしまうのだった。

そう、意外性を感じた。シエルの冷酷さとは裏腹に、人を大事にするその行動に、彼を愛する気持ちが生まれたのだ。

人は、自分の予測不可能なものを知ると、胸がキュッとなるように出来ているのではないだろうか。

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深海 もみ
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