三十路男のエトセトラ #5

 私は関西人である。
 生まれも、育ちも現在の在住も関西だ。
 
 日本で最も有名、有名というかよく耳にする方言は関西弁であろう。
 言わずもがなテレビやYouTube、あらゆるメディアのバラエティコンテンツで関西弁を使う芸人が多いからだ。

 おそらくその影響であろう、仕事柄、ちょこちょこと北海道から九州まで行くのだが、「関西人は口達者で面白い人が多い」 という認識が割と全国的に持たれている。

 はっきり言おう、この認識は 合っている 。

 間違っていると言いたいところだが、残念ながら 合っている 。

 何故残念かというと、なまじ多少面白く喋れるが故に、面白くしなくてはという変なプレッシャーを感じ、普段関西にいる時よりも、面白くしようとしてしまうからだ。

 普段の生活の中で 「儲かりまっか!!」 というフレーズを使うことは100%ない。「儲かりまっか!!」はおろか、「なんでやねん!!」も1週間に1回使えばいいほうなのにも関わらず、遠方に仕事に行くと、私は1日に5回は「儲かりまっか!!」と叫んでいる。

 それは何故か、ウケるからだ。
 
 面と向かっているのが、経営者やビジネスマンである必要は全くない。婆さんだろうが、おっさんだろうが、大学生だろうが、ホステスだろうが、誰だっていい。

 適当なタイミングで 「儲かりまっか!!」 と放り込むとウケる。

 適当なタイミングとは、儲かるとか儲からないとか仕事の話をしている時ではない、何の話でもいい。 

 ちょっとした会話の間、極度にシリアスな場面では避けた方が身の為だが、少しくらいの沈黙なら恐れる必要はない。

 脈絡もクソもない、必要なのは勢いだけだ。片手を広げて、少し前に押し出すようなアクションと共に 「儲かりまっか!!」 と繰り出せばもう勝負あり。

 この人は愉快で楽しい人なだなと、その後のコミュニケーションが非常に楽になる。
 
 昨晩もとある地方で仕事があり、泊まりだった為、取引先の方と飲食を共にしていたら、その方の知り合いがたまたま同じ店内にいたので、これも何かの縁と、席を同じくして酒を飲んでいた。

 しばらく時間が経っても、あまり会話が弾まず、何だか雰囲気も暗い。せっかくの酒席なんだから楽しまなければ損というもので。
 よし、今宵も伝家の宝刀を抜くかと頃合いを測っていたら、何やら自分でご商売をしているとかいう話になってきた。

 「よしよし、珍しくタイミングもバッチリ、普段は恋愛だの時計だの、訳のわからないタイミングで抜刀していたこの宝刀、それでも見事に空気を切り捌いてきたのだから、このタイミングなら宮本武蔵もびっくりの一刀両断に違いない」

 私は完璧なタイミングで叫んだ 「儲かりまっか!!!」

 はい、爆笑!! と思いその人を見ると、少し驚いた表情を浮かべた後、寂しげに
 「今月で店閉めるんですよ」 と。  
 
 「全然儲かってないやん」とは言えずに、その夜は沈黙と共に過ぎ去っていきました。

 

  

 

 

 

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