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就活ミステリー 浅倉秋成著「六人の噓つきな大学生」

前半にぽつぽつと落とされた伏線が、後半に一つずつ綺麗に回収されていくのが気持よく感じました。
読んでいる最中での気持の引っ掛かりや違和感を、後半でそういうことだったのかと一つ一つ納得しながら読んでいくことができました。

登場人物は、非の打ちどころがないと思えた六人の学生たち。
彼らの裏側を知らされて幻滅するけれど、最終ではその幻滅した気持までも回収され、後味のいい作品でした。

https://www.amazon.co.jp/dp/4041098793/

物語は、人気のIT企業が行う新卒採用試験を舞台にしています。

最終選考の課題は、提示された問題に対して六人がチーム一丸となって対処していくというもの。
全員で内定を勝ち取るため、仲間としての絆を深めていた矢先、企業から内定者は、一人とするとのメールが来る。

仲間となりつつあったのに、突如、互いをライバル視する関係になってしまう。
迎えた当日、六人が集まった部屋に一つの封筒が置かれている。
そして、その封書を開いたことからミステリーが展開していく。

予想外の展開が多く、謎解きに先を急ぎ一気読みした作品となりました。

ミステリーの面白さもさることながら、就職活動に対しての矛盾をバッサリと述べているのが強く印象に残りました。
私にはミステリーという括りではなく、就職活動について考えさせられる作品となりました。

就職活動といえば、私には40年ほども前の出来事になります。
当時も入りたい企業や大企業の採用は新卒者にのみ開かれおり、
憧れの企業に入るには、チャンスがたったの1回しかないことに、ずっと疑問をもっていました。

あこがれの企業に入りたい、新卒というその一時期にのみ得ることのできる切符を是が非でも勝ち取りたいといと思うのは、誰も同じです。
そして、この時の勝敗が、その後の人生に(今は、一時期であるかもしれませんが)大きな影響を与えます。
エントリーシートを提出したり、オンラインでの会社説明など方法や時期が変わっても新卒者というその一点には、現在においても何の変化もないことに驚かされます。

作中でも述べられているように、そんな短時間でその人の何を理解できるというのか。
もっともだと思う。
そして、採用側にもその日の気分の浮き沈みがあるという。
当然だと思う。

何十枚ものエントリーシートを作成し、リクルートスーツに身を固め、面接を受けるために、わずかとはいえない額の交通費や宿泊費を使い、多くの時間を費やす。

思えば多くの親や子供たちが、いい会社に入るために、報酬の高い仕事を得るために、いい大学に入ることに努力してきたように思う。

企業側もその一時期のために多くの時間を費やしている。
経費や人材の投入も少なくはないはず。

こんな方法しかないんだろうか。
人生の前半に積み重ねてきた努力を、全部とは言わないが、運に委ねる方法しかないのだろうか。

こんな理不尽な制度にいつまで振り回されなければならないのか。
もう、そろそろどこかの大企業が、画期的な方法を取り始めてもいいのではないか、そうしてほしいとせつに願った作品でもありました。


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