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月をモチーフにした3つの作品 小田雅久仁著「残月記」
前評判では、文章力が高く評価されたいたので、文章力が高い作品とは、どういった作品のことをいうのか楽しみにページをめくりました。
純文学の匂いのする作品でした。
パラパラめくった段階で、ページいっぱいに文字がぎっしりと詰まっていて、読みづらく感じましたが、実際は、思いのほか読みやすくリーダビリティの高い小説でした。
幻想部分やありえない世界の描写が、真にせまっていて、頭の中でスッと展開できたのは、著者の文章力の高さだったのかと思います。
月を題材にした3つの作品が収められていました。
表題の「残月記」は、近未来の独裁政権となった日本の社会に【月昴】という名の感染症が存在し、それに罹患した主人公の物語でした。
この病は、月の満ち欠けによって、活動のパワーが増減し、満月の時には力が最大限となり、そうでないときには、いつ死が訪れるとも限りません。
次の満月まで生きることができる特効薬を手に入れることを条件に、闘士として、独裁者の娯楽である試合で主人公は死闘を繰り広げます。
勝利者には、好みの女性との一夜を与えられる。女性も又特効薬を得ることを条件にこの任務をこなしています。
そんななかで、出会った男女のラブストーリでした。
【月昴】を患ってしまったものは、隔離され、人としての普通の生活を望むことはかなわなくなります。
二人は、離れ離れになりますが、木彫りを得意とする彼は、彼女のもとに地球上のあらゆる生物の彫り物を贈り続けます。
多くの生物の木彫りを生活の空間に埋めていくことによって、地球で、日本で満足に生きることが不可能な彼女のために、月という別世界に新たな生きる場所を創造していく。
直接的ではないけれど、健気で深い愛だと思いました。
現状では、ままならない状況を脱出するために、新しい世界に活路を見出すそうとする必死の思いが伝わってきて、せつなかったです。
学校生活や会社の中で、夫婦関係や親子関係、苦しいのにどうしても抜け出すことのできない関係。
どうあがこうと、塗り替えることのできない過去や持って生まれた自分の特性。
頑張っても変えることのできない、運命のようなものをみんな生まれ持っていると思います。
もう一つ別の世界があって、そういったもろもろを補って、自分の世界を新たに創造できたら、どんなに素晴らしいか。
見果てぬ夢ではありますが、月を眺めながら、あそこには、自分の理想の世界があるんだと想像を巡らすことができれば、ほんの数分であっても、一服の精神安定剤になるのでは。
月とは、そんな魔力がある不思議な存在だなと改めて思いました。
「そして月がふりかえる」は、月がふり返るのを見た主人公が今までの環境と全く異なる世界へと突き落とされる物語です。
最後は、同じ境遇の人たちから、メールがこれでもかと送られてきます。
僕たちは、月が振り返るのを目撃してしまって、人生が激変してしまったんだよと。
送り続けられるメールは、ってうるさいぐらいに、これは、現実だよと伝えてきます。
怖すぎます。
目が覚めれば、これは夢だったんだよって言ってほしいのに、これは、リアルに本当のことなんだよって、念を押ししてくるのです。
ぞくっとしました。
月の異変を目撃しまうのが恐ろしくて、月を眺めることができなくなりそうです。
「月景石」は、月から眺めた地球が描かれている自然石(月景石)を枕の下に入れて眠ると、月の世界で現実世界とは異なった自分を夢見るという物語。
現実と月で行動している主人公とのギャップが多きすげて、驚きました。
この物語は謎でした。
月景石に描かれている大月桂樹が、月の世界にあって、それが、最後には地球に降りてくるのですが、これは、何を意味しているのか、どう解釈すればいいのか、自分の読み込みが足りないんだろうけど難解でした。
この不可解な感覚を体感するのが、頭が真っ白になる感覚がこの作品の醍醐味だったのかもしれない。
この作品を読んで、村上春樹著「1Q84]を思い出しました。
月が一つの世界と月が二つ存在する世界を行き来するおはなし。
月の世界と交信する方法がどこかに隠されているのではないか。
バミューダトライアングルやUFOなど、不可解な謎は、たくさんあります。
どこかに解明されてない、抜け道があって、月と地球を行き来できるというのも、あながち間違っていないのかもしれない、と思わせてくれた作品でした。
これら、3つの作品を読んで、月の神秘性に今更ながら感心しました。
潮の満ち引きは、月の引力に関係しているし、女性の生理も月の満ち欠けに関係していると言われています。
実際に、月は、身近な生活に大きな影響を及ぼしています。
月を扱った不思議な物語はたくさんあります。
月の光に長く当たると妖怪になるという言い伝えや狼男の話など数えればきりがないです。
月の存在を強く意識しました。
しばらくは、月を見るたびにこの作品を思い出しそうです。