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クマのウンチは嘘をつかない~動物の素顔への近づき方~#02

気がつけば前回の更新から一ヶ月。ずいぶんと間が空いてしまいました。
さて第二回は、前回に続いて動物撮影のお話。動物の素顔に近づくための、遠回りだけど、とても幸せな撮影スタイルを解説します。

■ ペンギンは歩く鳥?泳ぐ鳥?

いきなりですが「ペンギン」って聞くと皆さん、どんな姿を想像しますか?氷の上を「よちよち歩いている」って答える方がほとんどじゃないかな、と思います。かくいう私も野生のペンギンを見たことはないのですが、イメージはやっぱり「よちよち歩き」です。

…ですが、聞いたところによると、多くのペンギンは陸に上がるのは換羽や子育てなどの特別な時期がほとんどで、実は海中で多くの時間を過ごすのだそうです。Paul Nicklen の撮影したミサイルのように海から飛び出すペンギンの写真を見て、驚く人も多いのではないでしょうか。海中で長い時間を過ごし、素早く泳ぎ回るペンギンは、「歩く鳥」というより「海を飛ぶ鳥」と言った方が相応しいのかもしれません。  

ではなぜ、ペンギンのイメージは歩く鳥なのでしょうか…?
それは僕たちが歩いているペンギンの写真や映像ばかりを見ているから…。そしてその理由は恐らく、極度に冷たい海中を疾駆するペンギンの撮影が難しいから、というのが、大きな理由の一つなのではないでしょうか。

同じことが、私が被写体として追うヒグマにも言えます。
講演など人前でクマの話をするときに必ずと言っていいほど皆さんに投げかける質問があります。
「クマって何を食べていると思いますか?」
そう。多くの人は「サケ」と答えてくれます。もちろん食べるのですが、それは彼らの主食、というわけではありません。年がら年中、サケを食べているのではないし、一年中サケを食べないヒグマだってたくさんいるはずです。また後日詳しく述べますが、クマは食べ物によって大きく場所を移動します。

ではサケを捕食する川辺や海等の開けた地形ではなく、彼らが最も長く時間を過ごす場所はどこなのでしょう…。私がプロフィールにメインの被写体は「森のヒグマ」と記す意味合いも、実はそこ含まれているのです。

もちろん「氷の上のペンギン」も「サケを食べるヒグマ」も、間違ったイメージではありません。愛らしく逞しい野生のワンシーンであることに違いはないのですが、普段の彼らの素顔は、海の中を疾走する凛々しい横顔であったり、梢の下で眠りこける姿であったりもするはずです。前にも述べましたが、動物たちのそんな姿を見ることが出来た時、私は一観察者として無上の幸せを感じます。だから、私の写真を見てくれる方にも、そんな写真を届けたいと思うんですよね。

■ 素顔を追うことは、その動物を好きになること。

プロフェッショナルな動物写真の撮り方には、大きく分けて2種類あると私は感じています。一つは、効率と写真の美しさを追求するタイプ。これはつまり、動物に出会える可能性が極めて高い有名なスポットを効率よく回り、そこを訪れる多くの撮り手の中で誰よりも美しく、格好よくその動物を撮るスタイルです。例えばサケを食べるヒグマを美しく、逞しく写しとる、といった感じでしょうか。これは一般的にイメージされる動物写真家の花形、と言えるのかもしれません。

そしてもう一つは、動物の素顔を追うタイプです。その動物が何を食べ、どんな地形にいて、どんな暮らしをしているのか。それらを自らの足を使って調査し、小さな発見を繰り返しながら被写体である野生動物へと近づいていきます。独自のアングルで模索を繰り返すので、動物に出会えない期間も長く、非常に非効率ですが、その反面、誰も知りえなかったシーンを見たり、彼らの日常の素顔を、ふと覗くような瞬間に出会えたりするかもしれません。
…そうなんです。動物たちの何でもない素の感じって、地味だけど、目にすることはとても難しいんですよね。

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