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『学校をUpdate!Web3時代の教育を考える』礒津政明×夏野剛×中島聡 連載対談2.あらゆるものがオープンになる時代の教育とは

2022年6月21日(火)に開催された、ソニーグループ教育部門トップで、メタバース・AI・ブロックチェーン・AR/VRを活用した未来の教育を提案する礒津政明氏を招いて、オンライン教育の最先端を行く学校法人角川ドワンゴ学園理事の夏野剛と、高専を活用した世界で通用するソフトウェア養成学校を提案する中島聡が教育について議論を交わした書き起こしです。

『学校をUpdate!Web3時代の教育を考える』
1.Webの世界も変革期、2040年の教育はどうなる?!
2.あらゆるものがオープンになる時代の教育とは
3.ミライの教育、先生の役割とは?
4.学びの多様性!学びたい時に学ぶことができる環境が大切


オープンソースの一歩先、オープンサービス

司会:では、今回テーマがWeb3.0時代の教育ということで、まずは中島さん。最近Web3.0やWeb3というキーワードをよく聞きますが、今までのWebと何が違うのでしょうか?

中島氏:いろいろ面白い言い方があるのですが、僕から見ると一つの大きなイノベーションは、まずオープンなデータベース。要は、データを貯めておく部分ができましたと。誰でもパブリックにアクセスできる。かつ、そこにオープンなプログラムが走っています。これが今までと全然違って、スマートコントラクトというのは、例えばブロックチェーンのイーサリアムの場合だと、イーサリアムという巨大なマシンが世界中にまたがって走っているイメージです。それは、バーチャルマシンでたった1台なんです。その1台の巨大なコンピューターに向かって、皆でスマートコントラクトというプログラムをデプロイ(プログラムを配置・展開すること)することができて、それが勝手に走り続けてくれるんです。それが人類にとって何を意味しているのか?というくらいすごい話で、スマートコントラクト一つ一つが勝手に仕事をするし、APIは自由に公開できるし、それからお互いに呼び合えるんです。
 
 それは、コンポーザビリティと呼ばれていて、例えばWeb2だとオープンソースという発想があるじゃないですか。オープンソースというのは、いろんな人が書いたプログラムをダウンロードしてきて、自分のところでかき集めて、オープンソースのソフトウェアを組み合わせて外に出す、デプロイするというやり方で使っていたのですが、Web3の時代になると、オープンソースのようにダウンロードして使うのではなく、ブロックチェーン上にあるスマートコントラクトを、直接APIを叩くという形の、オープンソースの1個先のオープンAPIみたいなものが今起こりつつあります。

 例えば、私が今日デプロイしたスマートコントラクトを、10年後、20年後の人が自由に使えます。それも永続的に。今までだと、例えば誰かがサービスを立ち上げてAPIを公開しても、その会社が潰れてしまったらそのAPIは(引き継ぐ人がいなければ)利用できなくなります。よくGoogleは、新しいサービスを提供しました、新しいAPIを提供しましたと言うけど、人が集まらないと5年ぐらいでサービスを止めてしまいます。そうすると、GoogleのAPIに依存してたアプリが全部動かなくなるということがすぐに起こるのです。

 しかし、スマートコントラクトだとそれが永続的なので、一度世の中に出たスマートコントラクトは動き続けるんです。まだ言葉がないのですが、オープンソースの1歩先の、オープンサービスの時代になりつつあるという、ものすごいことが起こっています。

教育もオープンに!オープン教科書・オープン講義

中島氏:教育はそういう考えでいくと、ウェブと比べると、まだ3世代ぐらい後だと思いますが、もっといろんなものがオープンでなくてはいけない。
 
 例えば教科書は、オープンソースでやらないのがおかしいのです。皆で共同して勉強するんだし、だいたい今は税金を使って教科書を作っているわけじゃないですか。それをオープンソースにしないのはおかしい。オープンソースにしてGitHub(Microsoftが買収したソースコードなどを管理するシステム。ソースコードだけでなく文書なども管理できる)を使えば皆で自由にアクセスできるし、「変更したい」と言ったら、プルリクエストと呼ばれる変更リクエストを出して、そのリクエストに対し皆で相談して、「この変更は良いから取り組もう」とか、「これは取り組まないようにしよう」という議論もできて、皆で毎年少しずつ良くしていくこともできるし、無料でできる。それから電子なので重い教科書を持つ必要もない。教科書をオープンソースにするだけで、教育はガラっと変わるのです。

 その次に、今度は教室。礒津さんの本にもありましたが、僕は反転教室の大ファンで、教師が講義式の授業をやるというのは明らかにムダ。N高でもやられていると思いますが、要はトップクラスの先生が、プロの編集者を雇って作った授業を無料で公開すればいいのです。それもオープンになるべきだし、そこはいくら税金をつぎ込んでも構わないと思います。

 だから、例えば、数Ⅰ、数Ⅱ・Bの微分積分のクラスというのを、10クラス分を国が本気で作ったら、ものすごくいい講義ができるじゃないですか。その10本を無料で提供するんです。それを子どもたちは見る。別にそれは家で見てもいいし、先生と一緒に見てもいい。そこに演習問題みたいなのが付いていて、演習問題だけを先生の目の前で解いて、詰まったら先生が教えてくれるという、そういうふうにすべきで。礒津さんの本の内容はものすごくいいと思いましたが、オープン教科書、オープン講義の部分もぜひ語ってほしいと思いました。
 そのプラスアルファとして、個別指導などは学校が担当すればいいわけです。

司会:礒津さん、いかがですか?

礒津氏:おっしゃる通りで、教科書がまずオープンになってないという、日本のかなり大きな問題があります。教科書会社同士がそれなりに競い合って、いろんな教科書を作っているという、非常に非効率なことをやっている。そしてどの会社の教科書を採用するかでまた先生が議論を重ねて、自治体によってどれかを採用するというプロセスもあったりして。かつ、検定を通過した教科書じゃないと使えないとか、非常にお役所的な仕事が何段階も重なっていて、ようやく紙の教科書が配られているという状況です。

 最近は、紙の教科書だけではなくて、タブレットにもなってきているので、一部タブレットでのデジタル教科書もあれば、紙の教科書もあって2重の手間になっていて、子どもたちは毎日ランドセルの中に教科書とタブレットを一緒に入れて持っていかなければいけないという、非常に大変な。昔よりもランドセルが重くなっているという、馬鹿馬鹿しいことが起こっているので、このあたりは根本的に変えていかないといけないことだと思いますし、そういったウェブのカルチャーやオープンデータ、オープンソースの考え方を、もっと日本の教育として取り入れるべきだと思っています。

司会:ありがとうございます。これについては、夏野さんどう思われますか?

Web3時代の情報の捉え方

夏野氏:僕、Web3.0の話って、すごく教育的に面白いと思っていて。どういうことかというと、今まで20世紀の教育というのは、「長く生きている人は必ず知識量が多い。それから、過去の経験に基づいた知識は必ず正しい。そういうことを知らない人が発信する資格はない」という、こういう社会だったと思うのですが、少なくともウェブが出てきて若干変わったのは、押し付けられた情報だけではなということがWeb1.0で分かったと思うのです。自分で自ら調べようと思えば、いろんなことが調べられる。

Web2.0になって何が変わったかというと、それを発信しようと思えばどんどん発信できて、世の中別に専門家って言われる人ではない人の意見にも、たくさん触れられるようになり、いろんな人が、さまざまなことを感じているという、世の中の実態を、皆がすぐに感じられるようになったことで、学校教育の中で一方通行で教えられることだけじゃないんだ、ということが分かった。

Web3.0になると、いわゆる学校教育とか、あるいは大手の新聞社がサイトで流している情報とはまったく関係ないところで価値が生まれ、実はそれが真実だったりすることがある。

今回のウクライナ紛争でもすごく思ったのですけが、一般の市民が上げる情報というのは、もちろん、今東部戦線でどういう状況になっているかというのは情報統制しているわけですが、それでも権力とか、あるいは強いものの情報統制がますますできなくなってきたことを証明していて。戦時は情報コントロールがありますが、戦時じゃない時は当たり前になってきたわけです。少なくとも、いわゆる西側、日本をはじめとする西側の諸国は、この情報統制というのを全然していない。いろんな情報に触れ合う中で、何が正しいのかを皆できちんと理解しようとする、あるいは理解しなくても、自分が正しいと思っていることを盲目的に信じる人もいて。それで僕は情報の世界というのはいいと思うんです。つまり、画一的な情報が、単に画一的に流れてくる世界で生きているのと、これだけ陰謀説から、わけが分からない話からいろいろある。これがリアリティだと思うんです。

僕は教育の現場では、ぜひこのWeb3.0の時代にこの情報を使って様々な議論をしてほしいと思っています。こういうことを積み重ねることが大切で、何が正しいかを断定する必要はないんです。ただ、皆で議論することで、自分が正しいと思っていた情報はちょっとおかしいかもしれないとか、そういうことを感じることが、情報に対する感度をすごく上げる。
 教育の役割って何かと考えたとき、入ってきた情報をどう自分の中で咀嚼するかというのが、特に現代における教育の一番大事なところだと思う。Web3.0の時代の、権力とか権威とかいうものがあまり集中していない世界の中でこそ、できる教育というのがたくさんあるんじゃないかと考え、僕は、今の状態を非常にいい状態だと思って肯定しています。

3.ミライの教育、先生の役割とは?へ続く


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