大富豪になれない修学旅行
二人の佐藤さんがいた。
ひとりは、転校してきたその日に騒ぎが起こるほどカワイイ女子。
もうひとりは、サイズでいえば5Lくらいの丸っこい女子。
あれは中3の修学旅行の時だった。
イケてないグループの我々男子4人は、夕食後の自由時間に部屋でトランプの大貧民をやっていた。
もちろん、それはそれで楽しかったのだが、多感な思春期の少年はふと思う。
(イケてる奴らは今何をしているんだろう…?)
女子の部屋で恋愛トークに花を咲かせているのだろうか。
この旅行がきっかけで交際を始めるカップルもいるだろうか。
まさに、我々4人は大貧民。
奴らはまさしく大富豪。
なんかもう、帰りたい…そう思った時だった。
コンコン。
誰かがこんなむさくるしい部屋をノックする。
一体誰だ?
「えっと、鈴木だけど、西ちゃん(僕)いるー?」
同じクラスの鈴木さんだ。
何も意識したことない女子だけど、こんなときにはドキッとする。
緊張しながらも返事をした。
「なにー?」
「佐藤ちゃんが、一緒に写真撮りたいんだって! いいかな?」
佐藤さんが!?
ぽわーっと顔が熱くなるのを感じた。
でもその刹那、ひとつの疑問が生まれた。
どっちの佐藤さん…?
そりゃあもちろん、転校生の佐藤さんがいい。
鈴木さんはどちらとも仲が良いので、この佐藤さんがどっちなのかの判断がつかない。
ニヤつく3人の貧民を尻目にドアの前に立った。
お前ら見てろ、俺はお先に富豪になるぜ!
ガチャ。
革命は起こらなかった。
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