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未来を託したい

約束の時間になっても一向に入室して来る気配がない。
「どうしたんだろうね、きっと緊急のオペでも入ったのかもね」
ZOOMの中でアポイントの医師の入室を同僚と待っていた。
約束の時間を1時間過ぎてもその気配はない。何か変だね。


僕たちはZOOMから一旦退出してメールを送ってみました。
「1時間お待ちしていましたが、次の約束がありますので退室します」と。
すると、直ぐに返信が来ました。
「秘書にお声かけくださいましたか。私も医局でお待ちしていました」と。


ん?どう言うこと?
約束をしていた医師は、リモートではなく医局で僕らの来訪を待っていたのだという。忙しさのあまりしっかりメールを見ていなかったのだと書いてあった。申し訳ないというお詫びの気持ちと、すれ違いの滑稽さが交錯して、何とも言えない暖かい雰囲気に包まれました。これもビジネス環境が変わったから生じた笑い話なのかもしれない。


結局、翌週に僕が大学病院の医局を訪問することになったのです。
医局で待っていたのは第一線で働いている超イケメンの外科医。すらっと背が高く、爽やかアップバングのツーブロック。初めてお会いしたのですが、吸い込まれてしまう。まさに俳優って感じでしたね。相当にモテるんだろうなぁ。そんなことばかり考えてしまいます。しかしながら、穏やかな物腰の奥にはしっかりとした鋭い眼光を伴っている。さすが超一流の医師だけあって、その存在感は抜群に大きかった。


スムーズに要件を済ませたせいか、少しばかり時間ができたので、久しぶりに訪れた本郷のキャンパスをちょいと散策してみることにしました。


キャンパス内を走る路線バスの道路を渡ると、そこには大きなサッカーグランドがある。石段を少し登ってみると誰の姿もない。平日だと言うのに練習してないのだろうか。これもコロナ禍の影響なのかもしれないな。


ふと視線を高めると、本郷の杜に囲まれたグランドの奥には、当時何度も夢に見たあの講堂が見える。何十年ぶりかに訪れたせいか、無意識の内にカバンの中に常備しているコンデジを取り出してパシャリと1枚撮っていた。やっぱカッコいいなぁ。



Sony RX100



グランド沿いに少し歩くと、白衣を着た医師が足早に走って行くのが見えた。研究室に向かうのだろうか。臨床と研究とを行ったり来たり。単身赴任先のマンションと自宅を行ったり来たりする僕とは随分違って見えるな。


少し進んだ先に古びた建物がある。その入り口にはしっかり「東大柔道部」と書いてあるではないか。30年ほど前、高校時代の親友が確かここの柔道部に所属していたはずだ。ここで出会った女性と結婚したんだっけな。何だか奴の人生の源泉に辿り着いたような気がして、少しだけ心が躍った。



Sony RX100


そう言えば、奴は現役でここに来ることは叶わなかった。目の前に見える講堂の脇で、悔し涙を流す奴に寄り添ったのを思い出します。僕がここに来たのはその時以来ということになる。奴は僕の知らない暗くて深い沼の中でもがき苦しんだ、そして漸く1年越しにここに来る夢が叶ったのだ。辛かっただろうな。



Sony RX100



奴が卒業して約30年。
今度は僕がここに通うことになります。勿論、学生としてではなく、ビジネスとして通うのです。30年前は受験することすらできず遠い存在だったこの講堂も、今では呼ばれる立場になったんだ。こんな生き方もあって良い。


少しキャンパスを歩いていると若い学生たちが楽しそうに会話している。思いっきり楽しんで欲しいな。暗くて沈んだ日本を生き返らせてくれ。だって君たちは奴の後輩なんだろ。君たちならきっとできるさ。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌱


🍵 僕の居場所




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