小春日和の小さな出来事
「ねぇ、ママ、なんであのおじさん泣いてるの」
小さな透き通った声が聞こえてきた。
誰か泣いているのかと思い、読んでいた本から少しだけ視線を上げてみると、白いワンピースを着た小さな女の子が僕を指差して立っている。
あれ、僕のことか?
僕はにっこり微笑んでこう言いました。
「おじさん泣いてなんかいないよ、目が痒いだけだよ」
女の子は不思議そうな表情で僕を見つめていた。
近くにいたお母さんと目が合いました。申し訳なさそうに軽く会釈をして女の子を連れて去って行きました。
僕は何かしたのかな。
ベンチで本を読んでいるだけなのに。
でも泣いてなんかいないよ。本当に目が痒いだけなんだ。
毎年この季節になると、陽気と陰気をいっぺんに味わいます。
踊り出したくなるほどの小春日和と重度の花粉症。一旦始まるとどうにも治らなくなるくしゃみ。雪解けの川の様に垂れ流し続ける鼻水。そんなことは分かっている。それなのに、天気が良いとマスクとメガネをかけて部屋を飛び出し、公園で読書することが唯一の楽しみなんです。
ズルズルと鼻を啜り、ギュッギュッと目を擦っている中年のオッサンの醜い姿は、小さな女の子からするときっと恐怖だったに違いない。
「失敗の科学」
流石に泣けるシーンはどこを探してもない。
でも、勇気をもらうシーンは随所にあります。
マージナルゲイン。その言葉は知っていたものの、その大切さを正直知らないでいた。失敗から学ぶことは大きい。大切なことは失敗しないことではなく、失敗をどう活かすかです。
別に泣いていたわけではない。
でも、花粉症に託つけて、過去の自分と向き合い泣いていたのかもしれないな。
ごめんね。おじさん、本当は泣いていたのかもしれないね。
最後までお読み頂きありがとうございました。