女子って生き物はよく分からない
車を走らせ実家に近づく頃は、徐々に雨足が強くなってきた。おまけに濃霧注意報が発令されており、山間の稜線が煙って全く見えなくなった。小刻みに動くワイパーの音だけが、静まり返った車内にこだまする。ふと外気表示に目を落とすと、なんと湿度は90%と表示されている。しかし気温が21℃と言うこともあり、意外と心地良さを感じる。
朝起きた時、
「紫陽花の里にでも行ってみる?」と妻を誘うと。
「良いねぇ」と即答。
天候はイマイチだけど、紫陽花であれば雨でもしっくりくる。いや、むしろ雨の方が雰囲気がある。紫陽花は今が最盛期。これを理由に誘ってはみたが、実はこっそり購入したカメラレンズの試し撮りをしたいだなんて口が裂けても言い出せない。
そうとも知らず、妻は気分良く紫陽花を意識した服装や傘を厳選しはじめている。あれやこれやと服を引っ張り出しては試着を繰り返している。全く女子ってのは頭の中がどうなっているのかさっぱり分からない。僕はジーンズにTシャツ、そして草履。いつものバンカラ風の親父丸出し。しんぷる・いず・べすとです。
『形原温泉紫陽花の里』
実家近くの有名なスポットではありますが、恥ずかしながらこれまで一度も訪れたことはありません。紫陽花に興味が無かったわけではなく、雨と人混みが人一倍苦手だったので、今まで僕の選択肢には入って来なかったのです。
駐車場に着く頃は奇跡的に雨が止んでいました。
しかし、訪問者は想像以上に多く、紫陽花よりも人の傘が目立っている。皆さん考えることは同じようで、お金を使わず、久しぶりに外に出たい願望と、季節的にちょうど良い塩梅がこの紫陽花ってとこでしょう。
色とりどりの傘が並んでいる一方で、僕の漆黒のコウモリ傘だけがシックで目立っている。首からカメラをぶら下げた方も多く散見されましたが、妻を騙してレンズのテスト撮りを兼ねているのはきっと僕だけだろう。
じっくり観察してみると、見たこともない紫陽花が一面に咲き誇っている。意外と紫陽花の魅力に取り憑かれてしまいそう。
「これも紫陽花なんだね」と妻に話しかけてみても、僕の声なんて届かない。妻は妻で感動しているらしく、スマホで写メをメッタ撮りしている。
高湿度の中で散々歩き回ると、当たり前のように疲れてくる。小雨と汗と疲労とで妻のご機嫌カラータイマーも点滅し出した。点滅具合は横顔で感じるのです。表情がなくなると、そろそろ危険モード。表情はない。
危機感を感じた僕は、余計なひと言を言ってしまった。
「折角だから温泉でも浸かるかい」
「良いねぇ」朝と同じ展開だ。
ここからほど近くにとっておきの温泉がある。
三河湾が一望できる露天風呂。壮大な開放感が日頃の疲れを癒してくれる、僕にとってはとっておきの隠れ家なのです。何しろ、妻の機嫌が回復する魔法の温泉でもあり、束の間の自由時間を堪能できる、謂わば、精神と時の空間だ。
「ゆっくり浸かってきてね!」
「じゃあ1時間後くらいにここで」
「了解」
開放的な景色は、疲れ切った僕の心を満たすには十分なのですが、正直なところ、機嫌の悪い妻から解放されるほんの一瞬も、更に解放的な気分に拍車がかかって素晴らしい気分になれるんです。
温泉に入った途端に雨足が強くなったようだ。
自慢の露天風呂へ向かおうと外に出ると、やたらと強い雨が降り注いでいる。どうにもこうにも芳しくない。片足だけ浴槽につけましたが2秒で断念。吹晒しで雨を凌げない。
残念ながら露天風呂は諦めて内風呂で済ませることにしました。そうなると、リラックスというより普段の入浴工程と何ら変わらない。身体を洗い10分くらいで終了。
サクッと上がってサイダーでも飲もう。
きっと妻も直ぐに上がってくるに違いない。
しかし、待てど暮らせど妻は来ない。
あの雨の中で露天風呂に浸かってるのかなぁ。全く女子ってのはよく分からない。どうしてそんなに長風呂できるんだよ。
妻が現れたのは、約束通りきっかり1時間後でした。
女性用の露天風呂はちゃんと軒があり雨を凌げることが出来たそうだ。
おーい、温泉屋さん、男風呂にもちゃんと気を遣えよぉ。軒下が無い分、ちゃんと値引きせんかい。
全く女子ってのは、、、よく分からない。
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🍀
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