物語『肝試し』
題名『肝試し』
(裏テーマ・真夜中)
(約2190文字)
「本当にやるの?」
「やるよ」
「面白そうじゃん」
「二人は家を抜け出せるの?」
「大丈夫」
「だいじょうぶ」
「バチが当たらないかな?」
「おまえ、怖いならやめれば?」
「やめれば?」
「やる」
「三人でやろう!」
「よし、やろう!」
「やろう!!!」
まだ小学生だった僕ら三人組はある遊びを思いついた。
肝試し大会だ。
まぁ、大会と言っても3人だけだけどね。笑
真夜中に家を抜け出して、団地の近くにある墓地を一人ずつ一周して肝試しすることを思いついた。
話の発端はショーちゃんがケンちゃんを怖がりだとからかったからだ。否定するケンちゃんにショーちゃんが証拠を見せろと言い出して。
それで僕にケンちゃんが相談してきたんだ。
「フミヤどうしたらいい?」
って僕に聞いてきたから、冗談のつもりで肝試しのアイデアを話したら本当にやることになってしまった。
僕を巻き込んで。
僕は怖がりだ。
肝試しとかとんでもない。
冷静な大人の振りはしているけれど僕はまだ子供なんだ。夜はトイレに行くのにもお母さんを起こして付いてきてもらわないと行けないくらいの怖がりだ。絶対に誰にも言えないけれど。
二人もあの様子じゃ本当は怖がりだ。
でも男同士だと友達でもつい見栄を張ってしまうことがあるんだよなぁ。
あれから心配で、どうにか中止にする方向に話を持っていこうとしたけれど、ショーちゃんもケンちゃんも意地の張り合いで、とうとう決行日も決まってしまった。ガクン。
約束の時間は今夜の真夜中の0時。
墓地の近くの自動販売機の前で待ち合わせだ。
僕は出かける時に母親に見つかってしまい、翌朝二人に「それで行けなかった、ごめん」と言い訳まで考えていたけれど、こんな夜に限って家族は誰も僕の外出に気づかない。
みんな早く眠ってしまって、スムーズに出れてしまった。
僕が一番かと思ったらショーちゃんが居た。
「おっす」
「おっす」
少し遅れてケンちゃんも来た。
「おっす」
みんな懐中電灯を持ってきていた。
「一人一人で行くんだろ?」
「早くしようぜ」
「でも順番は?」
「じゃんけんする?」
「俺が最初でもいいけど?」
ショーちゃんがここでも見栄を張る。それに興奮すると早口になる。お喋りになる。
「じゃんけんでもいいけど」
「俺が二番目にやろうか?」
ケンちゃんも少し強がる。
「一人一人じゃ怖がってるかどうかも、遠くて暗い場所が多いからぜんぜん分かんないと思うよ、ここで待ってる姿を近所の誰かに見られるのもヤバそうだし、三人でサッと回って早く帰ろうよ」
僕はなんとか切り抜けるために考えていたことをさりげなく言った。トイレじゃないけど母じゃなくて友達でも誰か側にいれば少しは怖くないと思ったのだ。それで強めに言ったら、
「それでいいよ」
「早く終わらそうぜ」
二人もすぐに賛同した。
きっとみんなもビビっているんだ。
「懐中電灯はオーケーだよね?」
「暗いと足下も見えないから、いいんじゃないの?」
「そうしよう!」
月は満月に近くてそこそこ明るかった。
そこも僕の計算だった。
だけど墓地は明かりがなく、かなり暗かった。
これは計算外。
だけど夜中に一人で墓地に来て下調べなんてできるわけがない。それに僕は昼でも一人では墓地に来れない。
懐中電灯を点けて墓地の入り口から全体を照らしてみると、思ったより背の高い雑草が多くて歩きづらそうだった。
「墓地の中の外側を回るだけでいいよね」
僕が確認のためそう言うと二人はうなずくだけだった。
カサカサっと前の草が鳴った気がした。
するとケンちゃんが
「佐藤がここでヘビを見たらしい」
嫌な情報をぶっこんでくる。
ケンちゃんは良くも悪くも馬鹿で素直な子。
「隣のクラスの高橋、ここでオバケを見たってよ」
そう言うショーちゃんは負けず嫌い。でも友情に厚い男。
「そこの木の棒で、つつきながら歩こうよ」
少し成績の良かった僕は空気が読めるまとめ役を演じていた。
木の棒をケンちゃんが振り回しながら先頭を歩いていたら、急に立ち止まって身構えて、ある一点を凝視した。
物凄く光る球体が二つ浮いている。
「にゃーーーー!!!」
黒猫のような猫?が怒ったような声を出して逃げていった。
驚いて声を出しそうになったがセーフ、二人を見たら、ほっとしたせいか3人とも笑顔になって笑ってた。
あと少しで終わり。
するとショーちゃんが
「大した事なかったな、またやる?」
そう言った。
「うん、いいよ」
ケンちゃんもそう答えた。
「じゃ、帰ろうか」
僕がそう言って三人で墓地を振り返ったら、墓地の奥に灯りが見えた。誰も居ないはずなのにと思って見ていたら、その灯りが、スルスルっとこちらに向かってきた。
「おかしくない?」
「変だね」
「人魂(ひとだま)ってことないよね?」
「馬鹿な、違うっしょ」
「そうだよ、違うよ」
「うん、そうだよね」
そんなことを言っていたら、
それは加速して僕らを追いかけてきた。
「逃げろーーー!」
三人は同時に叫んでいた。
僕らは散り散りになって、家に逃げ帰った。
翌日、みんなは学校で再会した。
休みの時間に少し話をしたけれど、みんな昨日の夜のことは話すのを避けていた。
それは、三人の誰かが、幽霊に取り憑かれて、入れ替わっているかも?…しれないからネ。
用心、ようじん。笑
【終わり】
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