物語『少し怖い話』

題名
『少し怖い話』
(裏テーマ・愛があれば何でもできる?)

(約1140字)



 私の村にはこんな話しがある。

 満月の夜には、誰かに会って話しかけられても決して振り向いてはいけない。もしも女の子の声が聞こえたら全力で逃げなさい。

 

 遠い昔、生まれてすぐ両親や祖父母も流行り病で亡くした女の子が親戚の家で育てられていたけれど、その家の子供たちに虐められていたらしいのです。

 少し離れたお兄さんとお姉さんでしたが、母親がその子のせいでお金がないと言っては二人の兄妹にいつも我慢をさせていた。

 母親の言葉をそのまま信じてしまった二人は女の子が憎かったのです。

 育ての母親は根は優しい人でした。でも物事を深く考えず話してしまうところがあって、子供が我儘なので適当に理由を作って我慢させたかったのですが失敗でした。

 

 育ての父親も優しい人でした。

 でも、女の子が少し大きくなると時々、嫌な目つきをするようになりました。


 ある日、母親は自分の実家に住んでいた兄の家族に不幸があり二人の自分の子供を連れて実家に帰りました。
 その頃は母親も気づくほど虐めは激しくて、三人の仲が悪いことを両親も知っていたので女の子を残すことにしたのです。


 その日は大きな満月が見える夜でした。

 兄姉がいないので久しぶりにのんびりと義理の父親と夕食を食べたり、一人あやとりをして遊んだりして過ごしました。そして居間でうとうと眠りについたまでは幸せだったのかもしれません。

 だけど、このあと女の子は育ての父親に襲われました。

 抵抗はしたけれど恐怖心でほとんど震えているだけだったと言うことです。

 終わったあと、父親は言ったらしいのです。

「お前は一生、育ててもらってる恩を忘れちゃいけないよ、愛があれば何でもできるだろ。これからもよろしくな」

 女の子は聞いた。

「愛があれば何でもできる?」

「するもんだ。母ちゃんには言うなよ」

 

 そんなことがあった翌朝、女の子は村の大きな川に浮かんでいたらしい。

 

 それから、満月の夜に川の側を歩くと女の子の声がするらしい。

 気になって振り向くと川の方から聞こえるらしい。


「ねぇ、愛があれば何でもできる?」


 そして迷って答えないと、



「じゃあ、いっしょに死んでーーー!!!」



 川から子供の手がスルスルスルと伸びてきて足を掴んで川に引きずり込んでしまうらしい。


 

 女の子は、父親の言いなりになりたくなかった。

 それは自分に愛が無いからで、自分は悪い人間だと思って死んだのでした。

 そして愛のある人を見つけて、その愛を少し分けて貰おうとしていたのでした。

 でも本当は、愛が無いから愛されない、つまり、普通に愛されたかっただけだと思います。


 とても純粋な女の子でした。

 その名は「純」でした。


 


【終わり】





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