物語『最高の1日』
題名
『最高の1日』
(裏テーマ・理想のあなた)
【約698文字】
河川敷で私は青空を見ていた。
雲の形からいろんな想像を膨らませながら。
今日は好きな人と少し話ができた。
昨日見たドラマの話をしていたら急にあなたが「俺も見てた」って言って友達との会話に入ってきた。すぐに終わった短い会話なのに今日はあれから幸せだった。顔が赤くなっていないか心配になるくらい。
いつも鏡とにらめっこする。
どんな角度が美人に見えるか研究したり、どんな表情が魅力があるか百面相したり。
どんなに頑張っても醜い顔が綺麗に見える角度も一瞬もなくて落ち込む。なのに鏡を見ることをやめられない。
理想のあなたの隣には、理想の私がいてほしいから。
じゃないと、あなたに悪くて告白できない。
青空はいつしか夕焼けになっていた。
ライラックの匂いがする。
川の向こう岸に、やっと犬の散歩をしてるあなたが見えてきた。私を見つけて嬉しそうに笑って手を振ってくれた。
私はイヤイヤそうにゆっくり手を振って返した。
川をはさんで私には、蝶々結びの風の紐が見えた。もちろん色は明るめの赤に決まってる。
そして家に帰ることにした。
学校が休みの日はユーチューブで化粧の勉強もしてる。家族に隠れてドキドキしながら。まだ、あなたには見せられない。でもいつか来る決戦の日を夢見てる。
それまで恋人ができないように呪いもかけながら。
でも、これだけで最高の一日になった。
自宅に近づくとカレーの匂いがした。
あなたの大好きな食べ物はカレーライス。
これだけでも運命のように思ってしまう。
いつもの倍の大声で
「ただいまー!」
家族に叫んでいた。
【終わり】