物語『継承』(テーマ・紙)
『継承』
紀元前二世紀頃、中国で発明されたという「紙」は西暦105年頃の蔡倫(さいりん)という役人の改良で現代に近い紙になったと言われている。
人類の最大の発明は、火と言語と車輪とも言われているが、伝達と記録の手段になった紙の発明は、少なくても21世紀までの主役の1つだったと言えるだろう。
日本には七世紀頃に紙の作り方が伝わり、仏教の普及と写経が盛んになることによって紙の製造も盛んになったと言われている。
今は令和の時代になったが、ある田舎では伝統の写経用の和紙を作り続けている老夫婦がいる。
その老人の跡継ぎは和紙の職人を嫌い刑事になった。しかし、辞職して田舎に帰り跡を継いでいいか?と手紙が来た翌年、ある事件で刺されてその後に亡くなった。
老夫婦は息子の命日に墓へ行くと若いスーツ姿の男を見つける。
墓前で泣き崩れている男は、
「殺して、ごめん。ごめんなさい」
そう謝っていた。
高原さとる、30才。
男は一年と三か月前の事件現場を思い出していた。
「暴力団に警察の情報を流したのはお前だろ?」
「はい」
「女のためか?」
「はい」
神山和樹(50才)は高原の胸ぐらを掴み街の人込みも気にせず大声を上げる。
「お前の人生が終わるぞ、金を貰ったら今度はアイツらはそれをゆすりに使うんだ!」
俺は何も言えずにいたら、バサッと高齢の女性が神山警部補に勢いよくぶつかって走り去って行った。
お袋に似ていた?
倒れた神山さんのお腹にはナイフが刺さっていた。
一命を取り留めた神山さんだったが三ヶ月後にコロナで亡くなった。
逮捕されたお袋は秘密を知られて殺そうとしたと供述。
俺の父が殺人犯だったことを神山さんに知られてパニックになったらしい。俺にも隠してたから。
あのころ俺の様子も変で、もめてる場面を見て俺を助けたかったようだ。
事件がなければコロナで呆気なく神山さんが亡くなることはなかった。
俺が殺したようなものだ。
俺は神山さんの実家にあがらせてもらった。
刑事を辞職したので紙漉き職人として跡を継がせて欲しいとお願いした。
コンビを組んで捜査をしだして、紙の魅力をいっぱい聞かされた。
神山さんの両親は俺の勢いに根負けして、弟子にしてくれると約束してくれた。
実は先月、俺は結婚した。籍だけだがお腹には子供がいる。
夫婦で住み込みすることも了承してもらえた。
玄関を出た所で妻に電話した。
「すべて予定どおりうまくいったよ、しおん」
「ありがとう」
「今度は二人で、お爺ちゃんとお婆ちゃんを驚かせないといけないね」
「うん」
しおん。
紙の音と書いて紙音(しおん)。
神山さんの一人娘である。
友達のために水商売で金を稼ごうとして騙され借金をし、俺に相談してきた紙音。
いろいろあったけど、惚れちゃった。
神山さん、笑ってくれるかな?
千年以上続いた紙漉きの伝統は、俺たちが守るから、見守って下さい。
【終わり】
(1200字)