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好きなものが増えるということ

 昨夜は夫が北海道産の氷下魚(こまい)の一夜干しを買ってきてくれた。

 北海道で生まれ育った私にとって、氷下魚は子供の頃から馴染みの味である。一夜干しを焼いたものは晩ごはんのおかずに、乾物の氷下魚を毟ったものはおやつとして食べていた。
 それが北海道だけの食べ物だと知ったのは、ずいぶん大人になってからだったように思う。
 今では北海道内の各空港のお土産物コーナーはもちろん、北海道が誇るコンビニエンスストアチェーン・セイコーマートでもマヨネーズ付きのむきこまいが販売されている。北海道独自の食文化のひとつとして、氷下魚という魚の名前が全国的にも浸透しているように思う。
 今回夫が買ってきてくれたものもそうだが、最近では宮城県内のスーパーでも氷下魚を扱っていることがある。「北海道産」とシールが貼られた氷下魚は北海道内で買うよりも若干割高ではあるけれど、故郷を離れても馴染みの魚を美味しく味わえるのはありがたい。
 何より、数年前に北海道で初めて氷下魚を食べた夫が、今ではすっかり氷下魚好きになっているのが嬉しい。

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 私は2年前の春に北海道から宮城に移住してきた。

 移住する前から、東北には度々足を運んでいた。仙台の居酒屋でホヤやメヒカリの美味しさは体験済だった。
 けれど、移住してきて近所のスーパーや市場で日常の買い物をするようになると、サケやサンマ、ホッケといった馴染みの魚とともに、北海道では全く見たことの無かった魚が鮮魚コーナーに並んでいるのに気が付いた。
 これまでにnoteにも書いてきたカナガシラやイシモチもそうだが、図鑑やテレビでしか見たことの無かったトビウオやタチウオ、ウマヅラハギが食材として並んでいるを初めて見た時には、見た目のインパクトの強さに「え?この魚、食べちゃうの?」と、正直なところかなり驚いた。(なお、どの魚も今では美味しくいただいている。感謝。)
 鮮魚コーナーで見慣れない魚を見つけてはスマホで検索し、自分でも調理出来そうなら買って調理して食べてみる。そんな日々を繰り返し、いつの間にか好きな魚がどんどん増えていった。
 石巻で生まれ育ち漁師を父に持つ夫にとっては、どれも普段から食べていたお馴染みの魚だったかもしれない。けれど、北海道から移住してきた私にとって、宮城の、そして東北各地の美味しい魚を食べる日々は、驚きと発見の連続だった。 

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 宮城に移住し、東北の魚をほぼ毎日のように美味しくいただいて暮らしているけれど、やはり私は生まれも育ちも北海道。ホームシックではないけれど、無性に北海道のものを食べたくなる時もある。
 今回の氷下魚のように、宮城でも買えるものもある。けれど、北海道ではコンビニやスーパーのお惣菜コーナー、道の駅の軽食コーナー等にあるのが当たり前だったものがこちらでは販売されていない、というものもいくつかあった。

 胡麻ドレッシングをたっぷりかけたラーメンサラダ
 まだらの卵と突きこんにゃくを炒り煮した子和え
 ふかしたカボチャを楕円形にして焼いたカボチャだんご

 どうして売ってないのだろうかと不思議に思い、調べてみて初めて、それらが北海道独自の食文化だったと知った。観光客向けのレストランでお馴染みのジンギスカンや石狩鍋なら北海道独自だと知ってはいたが、鮭のちゃんちゃん焼きまでもが北海道独自の郷土料理だと知った時は驚いた。
 そうと分かってからは、ラーメンサラダや子和えは、自分で作るようになった。
 幸いなことに、材料は近所のスーパーでも手に入った。子和え用の突きこんにゃくはなかなか見つけられなかったが、無ければ作ればいいやと普通のこんにゃくを切って作るようにもなった。
 ラーメンサラダは我が家の夏の晩酌メニューの定番、ちゃんちゃん焼きは秋の定番、子和えは秋から冬の定番、そしてカボチャだんごは休日のおやつの定番となりつつある。そして、どれも夫の大好きなメニューに加わっていて、リクエストされることもしばしばである。
 今、我が家の食卓には、東北と北海道とが混在している。

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 生まれ育った場所が違う者同士が一緒になるというのは、好きなものが増えることなのだなぁとしみじみと思う。
 誰だって、暮らしてきた環境も違えば、歩いてきた道も違う。過ごしてきた日々の何もかもが同じ人なんて、たとえ家族でも有り得ないだろう。
 ならば、違うことを楽しめばいい。
 違うことを楽しみながら、好きなものを増やしていけばいい。
 そんなふうに思いながら暮らしている今は、幸せだと思う。

 夫が買ってきてくれた氷下魚を食べながら、そんなことを思った昨夜の晩酌だった。



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