アナゴの塩焼きで夏酒を
今週も夫婦揃って残業続き。
私も夫も、仕事で疲れ果てた後にはささやかな晩酌で疲れを癒したいと思うたちである。料理するのもメンドクサイと思ってしまうほど疲れた日ならば、ちょっとしたお刺身でお猪口一杯の日本酒を味わってから眠りにつきたい。お刺身目当てで立ち寄ったスーパーに気の利いたお惣菜などあって、さらにそこに値引きシールが貼られていたりなどしたら最高である。
とはいえ、残業で帰宅が遅くなりすぎればスーパーも閉店間際。仕事帰りに立ち寄るも、お刺身やお惣菜コーナーの棚はすでにすっからかん、という日もある。
一昨日は、そんな日だった。
お惣菜やお刺身のみならず、売れ行きが良かったのか鮮魚コーナー自体がほぼ空である。困った。こうなったら何かすぐに焼いて食べられる調理済のお肉でも買って帰ろうかと思いかけた時、鮮魚売り場の片隅に、アナゴがひとパックだけ残っているのを見つけた。
宮城県産。きれいに半身におろされた状態のアナゴには、半額シールがぺたりと貼られていた。
アナゴもまた、宮城県の特産品のひとつ。
全国漁業協同組合連合会が「漁師が選んだ、本当においしい魚」として選定する「プライドフィッシュ」にも選ばれている。
ふっくらふわふわのアナゴは絶品。これまでにも、石巻や女川など県内の港町に出かけた際に、天ぷらやアナゴ丼で美味しくいただいてきた。
半額シールが貼られているとはいえ、真っ白な身はつやつやと新鮮そのもの。ドリップもまったく出ていない。
これは、絶対美味しいやつ。
しかも、半額とくれば買わない手はない。
迷うこと無く私はアナゴの入ったトレーを買い物カゴに入れた。
この時、すでに時計は20時に近かった。ほとんど衝動的に買い求めたアナゴの大きなパックが入ったエコバックを助手席に置きながら、帰宅後の調理を考える。
買ったはいいが、これから天ぷらを揚げるのは、正直、気が重いぞ。
蒲焼も、今日はちょっと面倒。
・・・ならば、塩焼き!
そう思いつくと、帰宅早々グリルに火をつけ焼き網を温める。その間に半身のアナゴをトレーから出し、食べやすく焼きやすい大きさに切り分けて全体に軽く塩を振る。アナゴをグリルに入れるのは、しっかりと網が温まった頃合いを見て。アナゴをのせた瞬間に焼き網からジュッと軽く音が立つのはしっかり網が温まっている証拠である。ほっとしつつ、けれど焦がさぬよう気を抜かず、両面をじっくり焼くこと数分。
アナゴは、ちょうど夫が帰宅する頃に焼き上がった。
これが、予想以上の美味しさだった。
天ぷらにした時のようなふわふわっとした食感は無い。けれど、アナゴそのものの美味しさを実感する。口に含めばほろりとほどけ、独特の香りと旨味が広がる。
「美味いな。これ、日本酒に合うね。」
「だよね。日本酒に合うよね。」
夫婦どちらともなくそう言いながら冷蔵庫から出してきたのは、週末に近所の酒店で買い求めた青森のお酒。
青森県弘前市の酒蔵・六花酒造さんの「杜来(トライ)」の夏酒「杜来 TRY醸造純米吟醸ブルー」。
さすが夏酒、といった感じのすっきりとした飲み口ながら、青森の日本酒らしい米の旨味がしっかり感じられる味わい。もちろん、アナゴとの相性も抜群の美味しさだった。
音楽性を知らずともそのアルバムジャケットにひと目惚れしてレコードやCDを購入することを「ジャケ買い」というが、実はこの日本酒は、ジャケ買いならぬラベル買いした一品である。
サンショウウオのかわいらしさとラベルの色に一目惚れして購入したのだが、帰宅後、ラベルの裏に記載された詳細を知って驚いた。
ラベルに記されている「マツマエ」とは、北海道の南部でかつて多く栽培されていたお米だそうである。
一時は栽培が途絶えていたマツマエを復刻栽培し、醸されたのがこちらのお酒。原料米は北海道産マツマエ100%。
思いがけず、故郷の北海道にちなんだお酒を選んでいたのだ。
お酒を選んだつもりがお酒に選ばれたようで、嬉しくなった晩酌のひとときだった。
ここ数日、雨模様の日もあるけれど、宮城県内はまだ梅雨入り前。
けれど、日本酒を扱うお店に足を運べば、涼しげなボトルの夏酒が並び始めている。
はじめましてのお酒もあれば、季節の風物詩のようなお馴染みのラベルも。
どれも、この時期ならではのすっきりとした味わい。迫りくる梅雨の湿気をひととき忘れさせてくれる美味しさである。
じめじめした日々が続くであろうこれからの季節。飲み過ぎに注意しながら、ではあるけれど、地元の魚と各地の美味しいお酒を味わいながら、健康に過ごしたいと思う。