Cell
2023年4月は渋谷で開催された『写真展「壁」』に参加した.
写真家であり文学研究者である別所先生が主催するオンラインサロンの写真展だ.
タイトルは「Cell(細胞)」
写真展に掲げられたテーマは「壁」.
具体的であるような,抽象的であるような,壮大であるような,抽象的であるような.
私はこのテーマに「Cell」というタイトルで挑んだ.
私にとって写真とは感情表現の手段である.
そしてその表現の延長線は自分のアイデンティティであり,常に何かもっと根源的なこと,真理に向かうものでありたい.
その一方で私は本業で植物遺伝研究に携わっており,遺伝や生命の仕組み,その本質,真理に興味がある.
そんな私であるがゆえに撮れる壁とは何だろうか.
キービジュアルに書かれた一文.
『「壁」があるから私は私たり得る。』
これだ.
それは細胞壁,または細胞から成る表面組織.
外界と自分を分けるもの.
自分という多細胞生物の最小単位.
自分を形作るもの.
細胞.
私は出産を経て自分と子供とが全く独立した生命体であることを体感し,頭でわかっていたにも関わらず大きな衝撃だった.
それは今でも日々感じ,今後も私の人生において大きな意味を持っていくだろう.
同じ生命体から生まれた全く違う生命.
二度と交わらない独立した命.
「二度と交わらない私と子の生命」を表現しようと,
息子に協力してもらい,自宅で悪戦苦闘しながらインターバル撮影をした.
皺やシミの目立つ老いの見える身体と,瑞々しく生命力あふれる身体.
イメージは顕微鏡写真.
それでいて母子の繋がりを感じるような温かみ.
特にメインとなる作品はフレスコ画をイメージした.
ヒトの細胞が二度と交わらない一方で,
植物細胞は自他の認識が比較的あいまいである.
そのため長期間接していると互いに互いを取り込んでしまい一つの個体として,または共同体として生きることができる.
例えば接ぎ木はそれを応用した栽培方法だ.
年月をかけて一体化してしまった樹木もしばしば見かけるであろう.
交わらない,母子の写真.
交わるもの,木の幹の写真.
どちらも母である私の願いの現れだ.
そしてその先には,生命とは.
そうして出来上がった作品がこちら.
最後に
今回の展示では個人的にかつてなくトラブル続きだったのですが、運営の方々,そしてメンバーの方々が助けてくださり無事に当日を迎えることができました.
設営、搬出で集まった皆さんの人間的な温かさと熱い想いに感動して作業中だいぶ涙目でした.
これからもこの仲間で高め合っていけたら良いなと思っています.
これからもよろしくお願いいたします.
参加者の皆さんの記事はこちらのマガジンから.
関連作品と「写真展またたき」
また今回の一連の作品は,
2022年10月に三重県の「おやまだ文化の森」で開催された「写真展またたき」に出展した作品『Gene』の続編となっています.
その「写真展またたき」が2023年5月30日〜6月4日に東京・恵比寿の弘重ギャラリーで巡回展として開催されます.
期間中は様々なイベントがありますので,
みなさまぜひお越しください.