見出し画像

食品パッケージは、印刷クオリティを絶対に重視したほうがいい理由

ここしばらく、noteやSNSではローソンのPB新パッケージに関する賛否両論の声が沸き起こっていました。そして先日、ついにローソン社長が一部の新パッケージを作り直すことを発表するという展開になりました。


パッケージは売上を左右する

実証するデータを持ち合わせていませんが、これは間違いないことだと思います。食品であれば、なおのこと明らかです。

以前、ある植物油メーカーの商品開発を担当させていただいたときのこと。新商品をブランディングするにあたり、パッケージデザインに何か参考になりそうな情報はないかと、深夜の代官山蔦屋に出かけました。

ちなみにデザインのコーナーに足を運ぶのは久しぶりのことでしたが、いつのまにかタイポグラフィのコーナーがとても充実しているのに驚きました。ひと昔前は、タイポグラフィといえば、ヘルムート・シュミットの『タイポグラフィ・トゥデイ』くらいしかない印象だったのに。勢いで『浅葉克己デザイン日記』を買ってしまいました。

そして、本題のパッケージデザインのコーナーを見てみると、こちらもずいぶん充実しています。でも目につくのは、パッケージデザインのネタ本ばかり。僕がほしいのは売上アップに直結するパッケージデザインであり、そのノウハウ。雰囲気のよいイマドキの事例があっても意味がありません。

パッケージはアフォーダンスや身体性にも関係するから、デザインのコーナーではなく、哲学とか社会学のコーナーも探す必要があるかと訝しく思っていました。

そのとき、目に止まったのが『シズルのデザイン 食品パッケージに見るおいしさの言葉とヴィジュアル』という本です。


五感に訴えるシズルワードからデザインを参照

「ブランド×パッケージ」となると、雰囲気重視のおしゃれデザインという印象が強いかもしれないですが、食品パッケージに関しては、大事なのはそれを口にしたくなるかどうかという、どちらかといえば生物学的なポイントをつくデザインになります。

この本はその点に関して素晴らしい。商品を手に取る人をどんな気持ちにさせるのか、それを逆算でデザインする方法を教えてくれます。僕が欲しかったのは、まさにこれでした。

カリ、サク、パリ、じゅわー

といった「シズルワード」で分類されたデザイン事例が掲載されています。人の五感を刺激するシズルを、どのようにクリエイティブで表現するか。読んで眺めていると、お腹が空いてきます。


食べるものは、本能的に、動物的に選ばれる

さらに、本書には佐藤卓さんのインタビューもありました。

ー食品パッケージは、他のグラフィックと比べてデザインする時の向き合い方が変わってくるものでしょうか?
 
佐藤:ええ、口に入るものですから、完全にモードを入れ替えてデザインしています。というのも、毒を口にすると人は死んでしまうから、何か食べものを口に運ぶ時に、僕たちは本能的にまず匂いをかいで安全なのかを確かめています。だから口の上に鼻がついている。食品はそれほど本能や生存に密接だと思っています。

まさにそうなのです。

食べ物を選ぶとき、人は動物に近づく。ふだんよりも動物的直感を駆使して、本能的に商品を選ぶ

だから、デザインはもちろんのこと、印刷クリエイティブも重要になります。デザインがいくらよくたって印刷がマズかったら意味がないのです。

音楽はレコードからCDになったとき、人の可聴音域に合わせて収録される周波数が制限されました。どうせ人の耳には聞こえないのだからって。

だけど、人は感じていました。レコードの方が音がいいと。

もともとジャズ喫茶をやっていて、音楽をこよなく愛する村上春樹さんもそう断言しています。

それに近いものが、食品パッケージにもあるのだと思います。


商品パッケージは印刷に予算とスケジュールを割くべき

パッケージを手にとって触った感じ、棚に置かれて照明が当たるとどんな風に見えるのか、ちょっとしたことでも消費者は本能で感じとり、手に取るのをやめるかもしれない。インクの発色や資材の印象で口に入れるべきものか、人は一瞬で判断してしまうのです


クリエイティブには予算とスケジュールとの戦いが付きものです。何となく僕は、制作現場において印刷の工程が予算もスケジュールも軽視されがちな気がしている。デザインにはお金も時間もかけるけど、印刷はできるだけ安く早く、というパターンが多いのではないでしょうか。

しかし、少なくとも、商品パッケージに関しては、印刷のクオリティが売上を大きく左右することは間違いありません

ローソンのPB新パッケージ問題から少し話が脱線してしまいましたが、制作現場には常にシビアな戦いがあります。その中で何に注力するのか、何に注力しないのか、その一つ一つの選択が売上に影響を及ぼすのではないかと、そんなことを考えました。

いいなと思ったら応援しよう!