ホームセンター「ハンズマン」の集客増加に貢献したセンサリー・マーケティングとは?
日進月歩のマーケティングの世界では、次々と新しいマーケティング手法が生み出されています。
今回はその中から、マーケティング学会や大学機関で研究が進められている「センサリー・マーケティング」という手法について、概要と事例を紹介したいと思います。
人の「感覚」に訴えかけ、態度変容を引き起こさせる
センサリー・マーケティングとは、消費者の感覚(センサリー)に訴えかけ、知覚や判断、行動に影響を与えるマーケティング手法。
感覚とは視覚や聴覚、嗅覚といった五感のことを指します。人間はものごとの判断や行動を常に合理的に選択しているわけではなく、五感から受けた刺激で無意識のうちに判断や行動を行っている場合があります。
たとえば、人は気温が高い時や室温が高い場所では、集団に同調しやすい傾向にあると言われています。あるいは、五感の中でも匂いを感じる嗅覚は、特に長く記憶に残るという性質があります。
こういった五感の刺激に対する、無意識下の態度変容のメカニズムを解き明かしてマーケティング活動に生かすことが、センサリー・マーケティングの主旨です。
センサリー・マーケティングを実践すれば、無意識に作用する状況を戦略的に作り出し、狙った通りの消費者の態度変容が期待できるというわけです。
まだ研究が進められている段階のため実践している企業は少ないと言われていますが、このマーケティング手法で成功しているのがハンズマンです。
香りで、キャンプや学校の楽しい思い出を呼び起こす!?
「ハンズマン」は、九州地方で店舗展開しているDIYホームセンター。
取扱い品目の多さと、DIYに関するイベント開催や情報提供などの消費者に寄り添ったサービスで人気があります。
しかし、ハンズマンに多くの消費者が集まる理由はそれだけではないと言われています。
店舗内に漂う木とワックスの匂いは、キャンプ場のロッジや一昔前の木造校舎などの記憶を呼び起こし、同時に楽しかった記憶や懐かしい感覚を思い出させます。
これは、嗅覚と脳の記憶を司る部分とが強く結びついているからですが、この感覚はハンズマンでの記憶として顧客の脳に強く残り、無意識に「ハンズマンに、また行きたい」と思わせることにつながっているのです。
客の視覚を刺激する商品レイアウト
また、店内の商品レイアウトにも工夫が見られます。
商品パッケージの色を考慮して配置を変えることで店内を広く見せるテクニックや、あえて上の棚に重そうに見える商品を配置してインパクトを与えるなど、顧客の視覚を刺激する様々な工夫が施されています。
さらにBGMは、記憶に残りやすいオリジナルテーマソングが流れており、また噴水の音が店内に響き渡ることで、癒しの空間を作り上げているのです。
ちなみに、このテーマソングには数パターンあるのですが、ハンズマンのWEBサイトからダウンロードできるようにもなっており、ご当地ソングとして密かな人気を得ているそうです。
手作業の売り場作りが、「温かみ」を醸成
小売店では売れ筋の商品を多く仕入れ、売れない商品は仕入れないように努めることが常識です。
取扱い品目を可能な限り減らすのが一般的には効率的な経営手法とされており、そのための商品管理に一役を買っているのがPOSシステムでしょう。
しかし、ハンズマンでは大型店でもあえてPOSシステムを導入せず、ニッチな商品や担当者の好みで仕入れた商品も置いています。また、POP制作をはじめとする店舗づくりは、売り場担当者が手作業で行っているそうです。
こうした一つひとつの「手作り感」が、消費者の五感に大きな影響を与えていると言います。
その証拠に、ハンズマンには「温かみがある」というブランドイメージが定着しています。これは、ハンズマンの温かさを消費者が五感で感じ取ったことに他なりません。
近年のDIYブームが追い風となって、さらに来店者数と売上を伸ばしているハンズマン。潮流に乗ったことだけでなく、こうした消費者の無意識に働きかけるセンサリー・マーケティング線略も、集客アップの要因になっていることは間違いないでしょう。
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