ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー未定の私見と”公式見解”ー
そう、その「現実」に今どれほどの価値があるというのですか?鯨井教授。
…これまでの信頼の積み重ねで成立していた会話の大前提が崩れ落ちる音が周囲に響いた。
ルカは不躾に投げられたその言葉の真意を図りかねて絶句するしかなかった。
そして「聖典」の解析や聖域の駆動理論を夜通し重ねてきた彼女たちの瞳にこれまでの信頼を見出すことはできない。
これは夢だ…もしくは思想統制系の能力者の見せるヴィジョン型の結界。ルカはそう信じたかった。
しかしこの場は自ら選んだ異能者と共に組み上げた隔離空間であり、私と精神波長が合わない者の侵入はできない筈。
だとしたら一体目の前に突き付けられた拒否の意思はどこから出てきたのか?
本来なら用意してあった草案を承諾してもらうだけの出来レースですらあったこの場の採決。
二の句を継ぐことができずにただ狼狽するルカに対してこの場の面々はもはや興味を持たず、持論を聞く気がまるで無いことは見るからに明らかだった。
この場の面々の中で一番の下座に座る彼女はルカの凍り付く姿を見て愉悦の笑みすら浮かべ、私的制裁を始める言葉を投げかけるタイミングを計っていた…
元々の火種を燃え上がらせることでこの事態を焼き清められるとの確信の元に。
「それで、横井さんとしては今回のような事案としてはどのような対応がいいと?」
「そうだね…そもそもの自覚領域の定義をもっと厳しく設定しておくべきだったかな、と」
ほたると蒔苗はこの凍結した時空間の俯瞰視点を眺めてとりあえずの対策を考えてみたが、腑に落ちないことが多すぎて揃って首を傾げていた。
「そもそもの話だけど、教授の構築理論の賛同者だけを集めて開いたわけだよね?それがどうしてこんなことになったわけなのかな…朝比奈さん」
「それは私のほうが聞きたいです。”リアライザー”の目から見ても空間組成や世界論理構成に不自然な事は起きていないのでしょう?だったら余計疑問が尽きないです。」
ほたるは苛立ちを見るからに募らせて蒔苗に打開論を求めたが、当の本人はお手上げのサインを出して肩をすくめた。
その様子を見てほたるは落胆や絶望感よりも激情が押し寄せてきたわけだが、この場で声を荒げても何にもならない…時間は異能で止めておくことができても事態は止まらないままだ。
ならばいっそ私の異能で皆の心象風景を塗りつぶして、と考え始めたところで来客の訪れを示すチャイムが聞こえた。
こんな時にこの秘匿空間に「来客」…?明らかに招かれざる者の気配を感じたほたるの視覚が次の瞬間に感知した人物は明らかに想定外の未来をもたらす使者に違いなかった。
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