ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー世界の定めと魔人の宿命ー

適者生存こそがこの世の理…素直に従うのが道理ではないかしら?
淡々と告げられた死刑宣告に返す言葉が出てこなかった。
人生の全てと言っても過言では無いものを捧げてきた事へのねぎらいの言葉はなく、「泥よけ」を始めとした汚れ仕事に滅私奉公し続けてきた忠誠への感謝もその言葉には含まれてはいない。
ただ非合法なカルテルによる「聖典」から得られる恩恵分配のシステムに泥を塗った…ただ"それだけ"の事だ。
あまりにも簡単な尊厳剥奪の儀式はすでに終わってしまった。
あとは公共の敵として火炙りされて処分記録に名を連ねるだけの運命は確定したのだ。
彼女の目線が黒服達の方へ流れ、シナリオの執行許可が降りる。
これから連行される場所は自明であった。
今まで私も連行する側として決裁をする立場であり数えきれない程の命乞いを聞いてきた。
今回自分の番が回ってきてこれまで切り捨ててきた者達の顔が脳裏に浮かんでいた。
しかし後悔や罪悪感といった人間として当然の感情は沸いてこない。
元々廃棄処分されるのが宿命付けられていた歯車には当然なのだと不思議な納得感があった。
…何にも役立たない走馬灯を眺めた一瞬後、黒服達の手が私の肩に触れた。
それを眺める彼女の楽しげな瞳の光。
それがあまりにも神々しく感じられて、私は全ての希望を手放すことを受けいれた。


「非能力者を根源の森に連行するなんてどれくらいぶりだったかしら。よく決裁が降りたものね。」
「お嬢様…今回の件は機密性がかなり高いものになります故あまり詮索なさらぬ方がよいかと愚考いたします。それに」
清香は年老いた側付きの執事の言葉にあからさまな不機嫌を表してその先を遮った。
私はもう自分の言葉の影響力や立場の意味について諭される子供では無い。
そして自らの管理者権限で守るべき者たちの日常と平穏を背負って久しい。
…それが今の私自身の主要因になっているのは少々息苦しいものだがな。
清香はそう自分に言い訳をすると状況報告が届いたデバイスに視線を落として内容を閲覧していく。
しかし清香の意識には何も情報が入ってこない。
明らかに主観と感情に任せた印象論から始まり科学的検証をどこかに置き忘れたかのような絵日記構文が主文として堂々とのさばり最後は陰謀論としか思えない飛躍したお気持ち文で締められている。
ここは物語の脚本を連ねる場所では無いと誰も指摘しなかったのだろうか?
真面目に小学生の宿題を添削しろというのだろうか。
清香は沸き立つ苦々しい感情を必死に噛み殺すと傍らに佇む老執事に解説を促す。
彼はやれやれと空気に印字されそうな感情を一瞬瞳に写したが、主にそれを見せつけるようなことをせず「解説」を始めることにした。
「今回の事案は根源の森の中でも秘匿地域、それも黎明の女神と称された存在が観測された区域の話になりますな。」
老執事はそう前置きをするとデバイス内の情報骨子の再構成を始めた。
本来超越者を拘束する為の牢獄であるエリアに非能力者を監禁する意味。
今回の事案に関して森の管理者にどういった取引を持ち掛けたのか。
これからの桜庭の家の立場と取りうるスタンスと我が主の果たす役目について。
それは神話の一端を担う伝承の儀式のごとく進んでいった。
一通りそれを聞き終わった清香はこの場で紡ぎ終わった新たなる神話の1ページを反芻して一息つく。
…この神話の「執行役」として秩序を組み立てるのは結構骨が折れそうね。
清香は無邪気な幼子のような高揚を胸に宿してこれからの算段を考え始めた。

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