娘、ゾウガメに触る。お蕎麦をイヤリングにする。
冷蔵庫にケーキがあったので、朝ご飯のあと食べようと思ったけど、念のため4歳娘に、
「娘ちゃんもケーキいる? いらんかったらとうちゃんとかあちゃんで食べてまうけど」
と尋ねた。クリーム系のケーキあんまり好きじゃないの知ってるけど一応。
娘は、「ううん」と首を横に振ったあと、ニィ、と笑って、
「おやつあるから」
と言った。余裕がおさえ切れずについ口角が上がってしまったというような顔をしていた。
好きなお菓子のストックがあるときの余裕すごい。
◆
前日の雨でたまった洗濯物を一気にやっつけるためコインランドリーに行った。乾くのを待つ間、買い物にいくつもりだったので娘に、
「いっしょにいく?」
と訊くと、
「お菓子たべとくから行かないー」
と応えたが、ぼくが洗濯物の山を抱えて出かけようとすると、
「とうちゃん待ってー!」
とついてきた。やっぱり行きたくなったみたい。その手には、人魚の魔法のステッキが握られていた。
コインランドリーへの道中、
「プリンセスプリキュアごっこやりたいなぁ」
というので、
「いいよ」
と言った。
「娘ちゃんは誰やる?」
「キュアフローラ!」
「とうちゃんは誰やったらいい?」
「とうちゃんはてきやって。てきの名前わかったで。ゼツボーグっていうねんで」
「ゼツボォーグ!!」
「はぁぁっ!」魔法のステッキを光らせる。
洗濯物は重たいけど、そんなやりとりをしつつ、ニコニコしながらついてくる娘がかわいい。
コインランドリーに洗濯物を放り込んだあと、近所のスーパーへ。
娘は基本好き勝手動き回る。
「とうちゃん、そっちからいって! わたしは反対からまわってくるわ!」
誰を追い込んでるんだ。それで娘は棚の向こうに消えた──と思ったらすぐ出てきて、
「とうちゃんすぐみえるとこにいて!」
と言いつけてくる。見失うのは不安らしい。冒険心と不安の拮抗。かわいい。
レジでお会計のあと、サッカー台で袋詰めしてると、娘は近くの壁に貼ってある秋のフェアの掲示物をみていた。
店員さんが作ったのか、アルミホイルと色紙で出来た焼き芋など、秋の味覚の工作が貼りつけられていた。
娘は、それを取って食べる真似をする。かぶかぶもぐもぐ。
「わ、焼き芋やん、おいしそうやな! とうちゃんにもちょうだい!」
とぼくが言うと、
「これほんまには食べられへんで~」
とニヤニヤしながら教えてくれる。
帰りもプリンセスプリキュアごっこした。
なにげに娘とちょっと近所におでかけするのが一番楽しいかもしれない。
◆
近所で移動動物園みたいなのやってたので遊びにいく。
イベントスペースには娘と奧さんで入って、ぼくは外から見てた。
ゾウガメやカピバラに触ったり餌やりができる。
娘は最初、勇んでケージに入ったけど、近くでみたら怖くなったのか、奧さんの脚にしがみついて隠れた。
でもだんだん慣れてきたのか、カピバラに餌を差し出すけど、またこわくなって腕をひっこめる。
結局、カピバラには奧さんが餌をあげた。
娘はぼくのとこまで走ってきて、
「えさあげたで! かあちゃんが!」
と報告して、またもどっていった。
次はゾウガメに触ろうとしていた。
娘は後ろから近づき甲羅に触ろうと手を伸ばすが、のこり3センチから先に進めない。ゾウガメはどんどん前に歩いて行き、娘はのこり3センチの間隔を保って手を伸ばしたまま同じペースでついていく。
完全に腰がひけておりおもしろい。「甲羅タッチすんのかいせーへんのかい」といった風情だ。
でも触れた。そっとなでなですると、ぱっと顔をこっちに向けて、イエーイ! みたいなポーズとるのかわいい。すぐ調子に乗る。
がんばったね!
その後も他の動物たちにも積極的に餌やりしてた。
あんまりこういうの怖がってやりたがらないイメージだったから楽しんでるの意外だったし来てよかった。
奧さんは、
「うさぎが単純にかわいかった」
とのこと。
うさぎなぁ。ぼくも「わんだふるぷりきゅあ」見ててうさぎに興味が湧いている。
うさぎって何考えてるのかわからなかったけど、ちゃんと飼い主を認識して、甘えてきたりするらしい。
そこに何らかの「ぼくとあなた」が成立するなら、それはもうまんまとかわいいやつだ。
◆
夜は商店街のおそば屋さんで蕎麦を食べた。
飲み使いも推してる感じだけど、食事目的でも入りやすそうな雰囲気だったので入った。
ぼくは、とろろざる蕎麦を注文した。奧さんはわかめ蕎麦を大盛りで頼んで娘とシェアしてた。
蕎麦めっちゃコシあって美味しかった。娘ももりもり食べていた。
そういえば、注文の蕎麦が出てくるまで「待っている間にどうぞ」と蕎麦を揚げたものがでてきた。
娘はそれが気に入ったみたいでぱくぱく食べるんだけど、たまに曲がった蕎麦に別の蕎麦がぶらさがっているのに当たると、耳元の髪を掻きあげて、ぶら下がり蕎麦を耳元に持ってきて、
「たべれるイヤリングやで」
と見せてきた。それを毎回やる。かわいい。
ところで、店の店員さんが栗山千明に似ており、日本酒含めお酒が豊富で、カウンター奥には様々な酒器が並んでいたので、ドラマ「晩酌の流儀」で栗山千明が演じる美幸さんが脱サラして良い晩酌を他者に提供する側となって飲める蕎麦屋をはじめたという可能性宇宙に迷い込んだような気分になれてよかった。
今度は日本酒を飲みにきたい。
◆
「くっさん」という存在がある。赤白ボーダーの靴下であるそれは娘の「おきにいりの布」だ。
くっさんは、落語家の手ぬぐいのように様々な形をとり、様々なものに見立てられる。
くるくると巻いて履き口を折り返してお手玉状にした形が、娘の最近のお気に入り。
夜ねるときもお手玉状のくっさんを握って寝るのだけど、うとうとしながら、
「とうちゃん……」
と呼ぶので、
「どうしたん?」
ときくと、
「あしたもまたこれしてな……」
と同じ形にすることをお願いしてきた。
「うん、いいよ」
とこたえた。
おやすみなさい。