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コントローラブル・ニードル・ペイン

 せんじつ産まれて2ヶ月の娘の予防接種にいってきた。

 だいたいこのくらいの頃から、予防接種ツアーが始まるのだが、その初日。どきどきである。ぼくも仕事休みであったため、夫婦と娘で小児科に赴いた。

 家の近所の小児科。はじめてお世話になる。

 小児科はキレイでかわいい。オルゴールの音色や、柔和に応対してくださる受付のひと。カラフルなどうぶつをモチーフにした飾りや、たのしげなこどもスペース。

 ふわふわの国だ。やさしさに溢れている。これからのツアー、ここなら安心だ。

 娘の検温のあと、受付の人に呼ばれ、診察室へ。

 ぎしり……

 その禿頭(とくとう)の男はデカかった。座る椅子が、まるで子ども用だ。この人が、この国のボスか。鋭い眼光、アメコミのプロフェッサーめいたワシ鼻が、数多のこどもを治療(ノックダウン)せしめてきた錬磨を感じさせた。

 我ら夫婦は、最初たじろいたが、これからの予防接種についての明瞭な説明とリソースを紹介するときの手際、大きな手で娘に触れるときの優しさに、すぐ信頼を抱くことができた。

 そして、予防接種の執行だ。

 奥さんが、抱いた娘の体勢を変えさせる。

 ドクターは薬液を極細の注射に充填する。よどみない動作で娘の腕に針をあてがうと、つ、とそのまま皮膚に沈み込む。シリンダをプッシュ。針を抜き取り、パッチで止血。

 ――と、寸毫おくれて痛みを認識した娘が、

「おぎああああ!」

 と叫んだ。

 きょうは注射は3本。ドクターは絶叫にひるまず、立て続けに逆の腕、脚、と続けて二射。突然に、それも連続する痛苦に全力で叫ぶ娘の顔は、ちからが入りすぎてすぐに真っ赤になった。

 だが、1分くらいで泣き止んで、奥さんの腕の中ですやすや眠った。

 強ぇ!!

 と思った。

 もしかすると、ドクターの技術によりそんなに痛くなかったのかもしれないし、極細の針のため痛かったとしてもすぐに痛みは引くものなのかもしれないが、意味も分からず為す術も無く突然知らない人に痛みを与えられることって、おとながフツウに過ごしていても、そうそう出くわさないやばいインシデントだと思うんだけど、娘は短い号泣の後に、まるで自らの身体循環によって痛みを取り込み無効化したかのように、泣き止んだ。

「えらかったねぇ。がんばったねぇ」

 こんなに人を労う気持ちになったことは人生で、あまりない。

 どでかいご褒美をあげたいが、高度に洗練された生命体である娘は、ミルクか母乳のみを受け取ることができる。分散せず高い指向性を持つ欲求は、特別な賞与を必要としないのか。

 でもいっぱいだっこして、ぎゅっとして、奥さんは母乳をあげた。

 すごいね。またひとつ、新しいエクスペリエンスを得たね。

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うそめがね
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