赤の球体
「赤ちゃんってこんなに丸い生き物とは思わなかった」
と奥さんが言った。
全力のタフなビズ(授乳)を終えた赤ちゃんは、全霊を賭したゆえ、お母ちゃんの膝のうえで脱力する。その様は、
「見て、赤い球体や」
と表現されるとおり球形だ。
人間なのにね。丸い姿勢がラクなのか、こたつで丸まる猫みたい。
産まれてひと月と半分の娘は、当たり前だけど、日々進化している。当たり前だけど全然知らなかった。こどもは、成長しかしない。昨日と同じ今日などあり得ない。
毎日仕事から帰ると、昨日してなかった表情や仕草をする。ベビーベッドのかたわらのぬいぐるみに、いつの間にか手が届くようになった。日々奥さんが記録している娘の体重は今日5Kgに達した。
この球形を基本フォームとする我らの子は、どんな形に変化していくのか。
――ということを、冷静に書いているが、時間がない。普段、理性など消し飛んでいる。
起き抜けに隣をみればすぐ横で眠る小ちゃいひとが居るのだ。赤ちゃんの寝顔を至近距離でみたことがあるか。それはショットガンを眼前で発砲されたのと同じことであり、散開するキュートなスラッグ弾が顔面といっしょに理性を消し飛ばす。そのとき世界に響き渡る断末魔は「天使!」だ。
出勤すれば一旦冷静さを取り戻し、稼ぎ頭として奮闘するが、家に帰ればアカチャンが待って居る。だいたい一生懸命おっぱいを飲んでいる。ちからが入るのか、握られた拳の必死さにぼくの心臓が握りつぶされる。「天使!」だっこするとくにゃりと胸にあずけてくる小さな頭の重さに、背骨が弾け飛ぶ。「天使!!」
ぼくは今日もしぬし、明日もしぬ。被るしあわせのアサルト。そんな、毎日です。
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