本を持ってて起こったこと
居酒屋のカウンターで文庫本片手にひとり呑みしていると、店主さんに話しかけられた。
「本って1冊読むのにどれくらいかかるんですか?」
一瞬戸惑うが答える。
「1ヶ月くらいですかねー。たまにしか読まないんで。……店主さん、本読もうとしてる感じです?」
「や、上から経営の本とか読めって言われてるんですけど、読もうとしても全然文字が頭に入ってこないんですよね」
「ってことは実用書ですか。読めって言われて読むのむずかしいですよね。ぼくは、これ好きで読んでる小説なんでぜんぜん平気ですけど、仕事で必要やから買った本は苦労しますよー」
「あ、そんなもんなんですね。いや、本とか読む習慣なくってねぇ」
「ならなおさらキツいですよね。でも、ちゃんと読もうとすると億劫になると思うんで、流し読みで良いと思いますよ。それでも気になるとこは勝手に目にとまると思いますし。なんとなく全体の雰囲気わかってから、もう一回読むとかもアリですよ」
「あー、なるほどねぇ」
などと話していると、来客があったので会話はそこで終わった。
のんびりビールと焼き鳥を片手に久々に買ったラノベを読むひとときも楽しいが、こうして生まれた店の人とのやりとりも楽しい。
手に本を持っていたから生まれたコミュニケーションだ。
紙の本の良さのひとつは、本読んでるとき「この人は本を読んでいるな」と分かることだと思う。
「何をしているのか」のわかりやすさって、その場所やその場にいる相手との「距離」だと思う。
その意味で本を読んでる状態の「距離」は適度な気がする。
別に本を読んでいる人って思われることで会話が生まれることがあるから良い。っていう話ではない。楽しかったけど。
本を読んでる状態って、自分の世界に入りっちゃいるけど、周りに対して何かしらの共感の手がかりを提供してる。
スマホだと何をしているのか分からないけど、本を読んでいる姿はそういうとこある。
意図的でなくても、「この人、こういうものに興味があるんだな」っていう小さな窓が開いている気がする。
店主さんがほかのお客さんの対応に行った後も、ちょっと考えてた。本読もうとしてるのか、店主さん。
ぼくは手元の注文用のメモ用紙に最近みた、本の読み方の核心ついてるなぁーって思った動画のタイトルを書いて、店主さんに渡した。
店主さんと本のエンゲージに幸あれ。
サムネのインパクトやばいな……