WOC2024を終えて
達成できなかったことについて文章にまとめるのは気が乗らないが、それでも WOC だけはやっておかなければならない。レース自体の、というよりは 2 年間の取り組みの。振り返り、というよりは今考えていることを。
やっておかなければならないと思うのは、数年前に自分が某氏の記事に感銘を受けたから。「こんなマイナースポーツでも本気で世界を目指している人がいるんだ」と思ったから。界隈から受けたものは返さないと。
私は社交的な性格でないため初対面の人に自ら話しかけることはなく、すべての SNS が鍵アカで、人気な方の種目が速くない人間 ( 2024/7/22 時点フォレスト日本ランキング 45 位)であるが故、他の WOCer と比較し、顔が広くない。
それでも今の日本男子スプリントは (浅い歴史ではあるが) 歴代最強と考えているし、その状況下で私は日本代表になれるくらいのレベルではある。唯一すべての人が見られる状態にしている note で、スプリントに関する文章を残すことに意義があれば嬉しい。
結果
殆どの日本人 WOCer は Sprint 個人での予選突破を最大の目標に据え、私も例外ではなかった。
レース前時点では「100点のレースをすればもしかしたら」と客観的に評価していたが、かなり苦しい Heat に入ってしまい、終わって振り返れば100点のレースを出来たとしても予選通過はできなかっただろうと感じた。今の自分は ”コースに一定以上の難易度があり” 、 ”良い Heat に入り” 、 ” 100点のレースを出来れば ” 予選通過できるくらいの実力であり、実際は海外の狙ったレースで 100点満点のレースをする難易度が極めて高いため、レースに挑む前段階で「WOC で戦うに十分な実力をつけるのが間に合わなかった」と言える。
強くなったのか?
なったと思う。
以下は私の過去 2 年間の主要海外レースの Sprint 個人の結果である。
トップ比、WorldRankingPoint、(自己評価)のいずれも改善している。
走力やスキルの向上は確実にあったが、実のところ改善に最も貢献したのは精神面のセルフコントロールができるようになったことであり、WOC2024 の全レースを通じてメンタルに起因するミスはひとつもなかったと思う。「メンタルは鍛えるものではなく技術」というダルビッシュ有投手の言葉を大事にしている。
予選通過は見えているのか?
非現実的だとは思わない。まだ遠いとは思う。
緩やかで連続的な成長だけでは間に合わず、走力かスキルいずれか最低 1 回のブレイクスルーが必要。
仮に今年の日本代表男子全員の強みを凝縮した選手が 1 人いれば、そこそこの確率で通過できると思う。
走力について
WOC2024 Sprint 個人 Finalist の走力は以下。
Special thanks to 大竹さん
現時点で私の走力は Finalist の最下層と同等くらい。これを見て「意外と今の走力でも戦えるのか…?」と思ったら大間違い。今の走力 (5000m 15:20 ~ 30) のまま Final に進出するには、15:20 ~ 30 の走力を持つ世界中のオリエンティアの中で一番スプリントが上手いくらいでないといけない。無論、これより足が速い選手で今回 Final に進めなかった選手も多くいるだろう。
日本でトレーニングをしながら Final 進出を目指すなら、男子の走力は 5000m 15:00 あたりが現実的な目安になるのだと思う。そしてこれはあくまで「今年であれば」の話であり、今後も世界的に走力のインフレは進んでいくと思われ、求められる走力もより高いレベルになる可能性がある。
日本国内でも男子の走力レベルは確実に上がってきていることや、最早 WOC は 3000m 9:26 (現在の走力基準 2 ) の選手が戦えるような状況ではない* ことからも、スプリント強化選手指定の一観点である走力基準もそろそろ引き上げることを検討した方が良いのだろう。
(なお、個人的に女子の基準は据え置くべきと考えている)
*記憶では、WOC2021 において理論上予選通過し得る走力(ミス率 0 %)が 3000m 9:26 だった気がする。自信はない。
取り組むべき課題
これは個人的な課題。
WOC2022 後に設定した自身の重点課題は以下。
ルートファインディングの精度・速度 up
走力 up
いずれも一定の改善があった。
特に、ルートファインディングについてはトレーニングにより速度を上げることに成功し、WOC2022 では殆どできなかったルート比較・選択が、WOC2024 では多くのレッグでできた。
しかし、いずれも WOC2022 終了後にイメージしていた水準には達しておらず、WOC2026 で結果を残すなら更なる改善は必須。取り組みの方向性はおそらく間違っていない。
スプリントを頑張る仲間が少ない
私にとっては地味に大きな問題であり、他の日本代表選手もスプリントにリソースを傾けている選手ほど感じているようだった。
私がライバルと思っている日本人 ( = 自分がレースをまとめても負けることがある選手) が現時点で 2 人いるが、いずれの選手もフォレストが強い。そして、そのような選手はスプリントシーズンが短い傾向にあり、彼らとひりつくような勝負ができる場や一緒にスプリントの練習をする機会は限られる。何より楽しくない。
良い仕組み作りができないものだろうか。
Sprint Relay
中堅国と戦えると思う。
今回の WOC2024 はレース前々日のメンバー決定 (女子)・走順変更 (1・4 走の交代)、前日のメンバー変更 ( 3 走)、チームとしての目標未設定というグダグダ具合だった割には、終わってみれば 23位でトップとの差はおよそ 10分。
( 3走を務めた私のレース内容に反省点はあるとして、) チームとしては決して良くはないが、悪くもない結果ではないだろうか。もしきちんと準備していたなら、もっと良い結果だったはず。
リレーにおけるトップとの差は展開やコース次第で大きく変わってしまうため妄信はできないが、(DISQ していなければ)会心の出来に見えた過去最高順位 19 位の WOC2022 よりトップとのタイム差は小さい。加えて今回は「もっと上手くやれたはず」という手応えがそれぞれにあった。
4人全員レースをまとめるのが難しいのはどの国も同じ。フォレストで男女ともに Division 2 に入っているような中堅国とも正面から戦える可能性がある。
女子
WOC で 2 大会連続で Final 進出者を出したのは、本当に快挙。しかも今回は KnockOut で。KnockOut の Final 進出は Sprint 個人のそれと比較し、段違いに難易度が高い。
加えて、WOC2022 は伊部選手、WOC2024 は近藤選手と一人のスター選手ではなく、異なる選手が為したという点でも可能性を感じる。
(ここからは炎上も覚悟して…)
だからこそ、勿体ないとも思う。
女子は比較的競技引退が早く、上位選手の入れ替わりが激しいこともあってか、日本女子スプリント上位層の競技レベル自体は 2022 ~ 2024 年で上がっていない (寧ろ下がっているかもしれない) と感じる。
女子の予選通過ハードルは男子と比較して低く*、個人的な考えではいま日本が最も世界と戦える可能性があるのは女子スプリントであるが、現状上位選手の競技力向上による全体の競技力の引き上げ、トレーニング戦略に関するナレッジの蓄積等が日本では上手くいっていないように見える。
女子は男子と異なる事情が多いため、仕方がないことなのかもしれないが。
*WOC2024 では女子の Sprint 個人予選通過ボーダーはいずれのHeatもトップ比約 114%、男子は約 107%。この 7% はとても大きく、男子のボーダーがトップ比 114%であれば小牧選手と根本は予選を通過できたことになる。
最後に
上記はすべて一選手の考えに過ぎない。
同じように WOC に出場して、全く異なる考えを持つ選手がいるかもしれないし、私自身が客観的にどう評価されているかも分かっていない。「何を偉そうに」と思われるような内容も含んでいると思う。
普段このようなことは口頭で話したり、節目で strava に書いたりしているが、今回の WOC が自分にとって一つの区切りであり、今後考えを共有する機会がないかもしれないと考え、敢えて note の形で残す。
いずれにしても WOC2026 を迎えたとき、”根本は少ししか強くなっていないのに、まだ WOC 代表レベルに留まっている”という状態は望ましくない。
頑張ろう。